島田荘司◎写楽 閉じた国の幻
*役 「役者をこんな醜女に描いちや、庶民の夢壊しますぜ、そうでしょうが」 「それがいけねぇんだ」 重三郎は言った。〔…〕 「おいら、そうは思わねえ。錦絵は歌舞伎の宣伝じゃねえ。そりゃ、酒落本がお上の提灯本じゃねぇのと一緒よ。 こっちが自分の考え、少しは言って聞かせてやらねぇと、世の中腐っちまわ。みんなとは言わねえ、だからあんたはあんたでいい。 だが本当のこと描く絵師もよ、一人くらいはいたっていい、いなくつちやならねえ。 絵師は嘘しか描いちやいけねぇのかい? 板元はそれしか出しちやいけねぇのかい。そうと決めるなら、阿呆のお上と一緒よ」 |
◎写楽 閉じた国の幻│島田荘司│新潮社│ISBN:9784103252313│2010年06月│評価=○
<キャッチコピー>
ミステリ界の巨匠が、遂に「写楽の正体」を捉えた! わずか十ヶ月間の活躍、突然の消息不明。写楽を知る同時代の絵師、板元の不可解な沈黙。錯綜する諸説、乱立する矛盾。史実と虚構のモザイクが完成する時、美術史上最大の迷宮事件の「真犯人」が姿を現す。
<memo>
本筋になんの関係も無い冒頭の数十ページ。本書が「このミス」2010年第2位でなかったらそこで読むのを断念していただろう。
しかし著者は「なにより、この考え方が無二の正解に感じられる理由は、この事情ならば、従来のすべての説の前に立ちふさがる最大の難問、当人も蔦屋も、周辺の蔦屋工房出入りの者も、何故全員が写楽の正体について厳重に口をつぐんでいるのか、という例の手強い懸案にあっさり答えられる」という写楽の新説を打ち立てる。
ところで2011年5月NHK「写楽~天才絵師の正体を追う~ 」、BS「写楽・解かれゆく謎」では、ギリシャ・コルフ島のアジア美術館で発見された写楽の扇面に描かれた役者絵(初めての肉筆画)をもとに、写楽の正体に肉薄し、ほぼ止めを刺したように思える。島田荘司もBSの中のインタビューで本書の“意外な”自説を述べているが、ここではその正体を明かさない。
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