嵐山光三郎◎文士の舌
* 文士が通った料理店には、極上の味だけでなく、物語の断片が粒子となってひそんでいる。 文士とかかわりを持った料理店は、いまはほとんどが閉店してしまったが、ここに書いた店はしぶとく残り、いずれも繁昌している。そこには何かがある。 料理店にとって文士は、客の一部にすぎず文士だけが客ではない。しかし、ひとたび文士と交流を持った以上、文学の念力がしみこむ。 吉行淳之介は「料理の味がわからぬ女はセックスが粗悪である」と喝破した。 有楽町の慶楽でレタス入りの牛肉焼きそばを食べれば、吉行流欲情の正体がぼんやりと見えてくるだろう。 ということで、羞恥と恋情と流浪が渾然一体となった文士愛用の料理店では、氾濫する料理店案内本とはまったく別の味覚を体感することになるだろう。 |
◎文士の舌│嵐山光三郎│新潮社│ISBN:9784103601050│2010年12月│評価=○
<キャッチコピー>
鴎外、漱石から川端、三島、向田、開高まで─24人の「舌」が選んだ、明治・大正・昭和の味。ミシュランにも負けない、文と食の達人「御用達の名店」徹底ガイド。
<memo>
著者得意の“文人グルメ”もの。このたびは実際に店を訪ねて……。
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