大森実◎エンピツ一本(中)
* 酩酊して帰宅したのは午前3時半ごろであった。玄関の扉を開くなり、けたたましく電話が鳴った。 受話器を取り上げると、 「ケ、ケ、……、ケネディが撃たれました⊥と第1報に接した外信部デスクからの急報であった。〔…〕 拙宅の風呂場には、いつもバスタブに水が張られていた。火災予防のためだったが、次の瞬間、私は裸になってバスタブに飛びこんだ。心臓の鼓動が止まるほどの冷水の中に3分間も浸っていると、酔いが覚めるだけでなく、思考がはっきりしてきて、3ページの紙面編集の骨格ができあがった。〔…〕 自宅を出てから本社の裏門まで17分間、これはムチヤクチャな大暴走であった。日比谷公園を過ぎた辺りから、パトロールの白バイが2台、追跡してきたが、社の裏門の守衛に、 「白バイの警官には、ケネディが撃たれたんだ、新聞作りが終るまで逮捕は猶予してくれといってくれ」 といって2階の編集局に駆け上った。 ──第五章 大いなる闘い |
◎エンピツ一本(中)│大森実│講談社│ISBN:9784062058278│1992年05月│評価=◎おすすめ
<キャッチコピー>
本が世界に向かって飛躍しようとしたとき、常に事件の現場に立って、真実を報道してきた男の「叡知」の記録。
<memo>
飲み続けているうちに、隅っこにいた浜口庫之助が、
「ママさん。ギターを貸してよ。大森ちゃんの歌ができそうなんだ」といい出した。
ギターを抱えた浜口庫之助は、暫くギターの弦を爪びくようにしていたが、
「こんなのどうだろう。みんな聞いてよ」と自分で唱い出した。
エンピツが一本 エンピツが一本/きみのポケットに
エンピツが一本 エンピツが一本/きみの心に
明日の夢を書くときも/昨日の想い出書くときも
黒い頭のまるまったエンピツが一本だけ
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