輪島裕介◎創られた「日本の心」神話──「演歌」をめぐる戦後大衆音楽史
* 昭和30年代までの「進歩派」的な思想の枠組みでは否定され克服されるべきものであった「アウトロー」や「貧しさ」「不幸」にこそ、日本の庶民的・民衆的な真正性があるという1960年安保以降の反体制思潮を背景に、 寺山修司や五木寛之のような文化人が、過去に商品として生産されたレコード歌謡に「流し」や「夜の蝶」といったアウトローとの連続性を見出し、 そこに「下層」や「怨念」、あるいは「漂泊」や「疎外」といった意味を付与することで、現在「演歌」と呼ばれている音楽ジャンルが誕生し、 「抑圧された日本の庶民の怨念」の反映という意味において「日本の心」となりえたのです。 さらにそれは専属制度の解体というレコード産業の一大転換期と結びつくことで、専属制度時代の音楽スタイルを引き継ぐ「演歌」と、新しく主流となりつつあった米英風の若者音楽をモデルとした非専属作家によるレコード歌謡との差異が強く意識され、 昭和30年代までのレコード歌謡の音楽的特徴はおしなべて「古い」ものと感じられるようになり、それがあたかも過去から連綿と続くような「土着」の「伝統」であるかのように読み替えられることを可能にしました。 ──第11章「エンカ」という新語 |
◎創られた「日本の心」神話──「演歌」をめぐる戦後大衆音楽史│輪島裕介│光文社│ISBN:9784334035907│010年10月│新書│評価=○
<キャッチコピー>
「演歌は日本の心」と聞いて、疑問に思う人は少ないだろう。明治の自由民権運動の中で現われ、昭和初期に衰退した「演歌」──当時は「歌による演説」を意味していた──が、1960年代後半に別な文脈で復興し、やがて「真正な日本の文化」とみなされるようになった過程と意味を、膨大な資料と具体例によって論じる。いったい誰が、どういう目的で、「演歌」を創ったのか。
<memo>
「演歌」というジャンルがいかにして作られ、“日本の心”となっていったのかを追求したもの。この種の本では必須と思われる年表がないのは、強引な論理のためか。
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