« 酒井充子◎台湾人生 | トップページ | 北村薫◎いとま申して──『童話』の人びと »

2011.06.08

久世朋子◎テコちゃんの時間──久世光彦との日々

20110608

*

畑帰りの親父と会ったんだよ、ばったり。俺は友だちと一緒で。

親父は手拭きを頬かぶりして、くたびれた麦わら帽子をかぶっててさ。リヤカーを引く手をとめて、「光彦、一緒にこれを食べなさい」って腰につけていた弁当を開けて俺に差し出した。

竹で編んである弁当箱の中に焼きむすびがそのまま残っていて、それを俺は「いらない」って手で押し返して、弾みで弁当箱ごと焼きむすびは道に転がった。

いつだって腹を空かせていたのに、なんで「いらない」って言ったのかなぁ。道に転がった焼きむすびを、親父はかがんで拾って。

それからすぐだったのかな……死んだのは。

──久世はほうっとフクロウのような声をもらして、両の掌を瞼にあてた。

──『おむすび その二』

◎テコちゃんの時間──久世光彦との日々│久世朋子│平凡社│ISBN9784582834963201012月│評価=○

<キャッチコピー>

故・久世光彦との30年にわたる暮らしを愛情をこめて回想する。日常の風景から昭和という時代が見えてくる。テコちゃんと呼ばれたかわいい久世を知ってほしくて。ぬくぬく、懐かしく、ほろ苦く──。

<memo>

久世は父親の資料を集めだしていたという。「──父探しをしたかったのか。戦争に敗れ、世の中がどう変わったのかうまく納得できないまま亡くなった父を、疎んだ目で見ていた息子の、父への詫び状を書きたかったのか」(本書)

久世光彦★マイ・ラスト・ソング

|

« 酒井充子◎台湾人生 | トップページ | 北村薫◎いとま申して──『童話』の人びと »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 久世朋子◎テコちゃんの時間──久世光彦との日々:

« 酒井充子◎台湾人生 | トップページ | 北村薫◎いとま申して──『童話』の人びと »