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2011.07.15

玉岡かおる◎お家さん

20110715

*

「どないや、お千。私はいやな主人でしたか?」

突然の、それもあまりに単刀直入な問いに、お千はひるむ。よねは言葉を足した。

「あんたにいっぺん聞きとうてな。……私は逃げだしたいような主人でしたんか、て」〔…〕

対するお千の答えは、笑みだった。ただ微笑みだった。笑みほど多くを語る表情はない。よねはゆっくり、うなずいた。

「そうか。……そうでしたか」

ため息が出る。そしてしばらく、座敷を覆う沈黙。二人の女が座っている。

「人間、ちゅうのは、難しいもんでんな」

家を守るために自分を律し、その厳しさを他人にも求めた。お千に、息子に、そして珠喜に。そのことごとくが、この手を離れていった。いや、逃げ出したのだ。

◎お家さん(上・下)│玉岡かおる│新潮社│ISBN9784103737094ISBN9784103737100200711月/文庫版:201009月│評価=◎おすすめ

<キャッチコピー>

好景気に湧く神戸の港に、自らの名を冠した船を持った鈴木よね。台湾で、かなわぬ恋に身を焦がす娘・珠喜。製糖所、人造絹、船を造り、鉄と米を操り、戦時を迎えて大商いに挑む大番頭・金子直吉。明治から昭和へ、揺れ動く時代に繁栄した巨大商社を支えたものは…。波瀾の運命を生きた明治の女の一代記。

<memo>

神戸の商社鈴木商店といえば城山三郎のノンフィクション『鼠──鈴木商店焼打ち事件』1966)だが、本書は虚実取り混ぜ、作りすぎのきらいはあるが、面白い小説。鈴木よねの養女・珠喜がまことに魅力的。「今は言うてやれる言葉もあらへん。……けど、女は、一人になってからがほんまの人生やで(本書)

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