中島岳志◎秋葉原事件──加藤智大の軌跡
* 他にも、加藤の心に届いた言葉はあった。 例えば、上野の駐車場で職務質問した警官と駐車場の管理人。同じ北国出身という話題から、 「生きていれば辛いこともあるが、楽しいことは必ずある。君はがんばりすぎだから、肩の力を抜いたほうがいい」 と語った警官に、加藤は涙を流した。 駐車料金を「年末までに返してくれればいいから」と言って温かく見送ってくれた管理人に対して、彼は手土産を持って事務所に現れ、料金を返した。車のローンの返済は放置していたのに。 福井のミリタリーショップの店員とは笑顔で会話し、帰りの電車内で「人間と話すのっていいね」と書き込んだ。〔…〕 それがたとえ一時だったとしても、彼の心は動いた。自然と笑みがこぼれた。涙もこぼれた。 |
◎秋葉原事件──加藤智大の軌跡│中島岳志│朝日新聞出版│ISBN:9784023309227│2011年03月│評価=◎おすすめ
<キャッチコピー>
2008年6月秋葉原で発生した通り魔無差別殺傷事件。7人が死亡、10人が負傷した。加藤智大を事件に駆り立てたものは何だったのか?事件の動機として、「派遣切り」になりそうになったから、あるいは、彼がのめり込んでいた携帯の掲示板で「なりすまし」が出たから、という説も出たが本当にそうなのか。気鋭の政治学者が裁判を傍聴し、彼の故郷や職場周辺を訪ねて、事件の背景を探る。
<memo>
──「しかし、加藤のような青年に対して、過剰に鞭打つように「自己責任」を強いる社会とは何なのか。そして、加藤への共感を示す若者が多数存在する社会とは何なのか。なぜ、加藤へのシンパシーは消えないのか。なぜ無差別殺傷事件は連鎖するのか」と著者は書き、その生い立ちにまでさかのぼる。加藤を「絶対に許せない」立場の読者であっても、読み進めるうちにだんだん切なく辛く息苦しくなってくる。それにしても1997年の神戸連続児童殺傷事件の犯人と同年齢であり、その母親との係わりがなんと酷似していることか。
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