出久根達郎◎古本屋歳時記──俳句つれづれ草
* みづいろの蚊帳に別れて老いやすし 長谷川双魚〔…〕 蚊帳の話題が出た時、実は私はあることを考えていた。裸の娘が手元にまとうべき衣が見つからなくて、とっさに蚊帳を腰に巻きつける。 確かそのような詩を、昔読んだことがある。誰の詩であったか、思い出そうとしていたのだ。そういう情景の詩なのだが、これが少しもエロティックでない。どころか悲惨な感じのするものだった。〔…〕 8月6日、朝のテレビが広島原爆慰霊式典を実況している。見ているうちに、詩の作者を思いだした。被爆して、「原爆歌人」といわれた正田篠枝さんである。 その著『耳鳴り』(平凡社)に、「蚊帳の釣手」という題で収められている。着ていたものが原爆で 焼け、見ると焼け残りの青蚊帳がある。それを着けて逃げた。 歩くたび釣手が鳴った、という詩である。 ──「蚊帳」 |
◎古本屋歳時記──俳句つれづれ草│出久根達郎│河出書房新社│ISBN:9784309020396│2011年05月│評価=△
<キャッチコピー>
作家と古本稼業、知り合いの古本屋さんとの交わりと、四季折々の身辺雑記。各冒頭に導入となる俳句を一句配して。日々の生活を豊かに、ゆとりの一冊。
<memo>
著者には膨大な古本屋身辺雑記的エッセイがある。本書は俳句雑誌に連載されたもの。さすがに種が尽きたのか、以前書いたエピソードを“再利用”している。よって出久根本は読み納めとしたい。
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