姜尚中◎トーキョー・ストレンジャー──都市では誰もが異邦人
* それから20年、バブル経済はそれこそ泡沫のように消え去り、トーキヨーは、黄金の輝きを失って上海やシンガポール、さらにソウルなど、アジアの新興都市にその圧倒的な地位を譲りつつある。 トーキョーはやっとバブルの「欲ボケ」から醒め、身の丈の姿に戻ろうとしていた。そんなときに震災とツナミそして放射能と電力不足がトーキョーを震え上がらせることになった。〔…〕 それでも、私は悲観も楽観もしない。ただ、高慢なトーキョーでも、萎縮したトーキョーでもあってほしくないと願うだけだ。よそ者(ストレンジャー)にさりげなく目配せし、そっと抱きかかえるようなトーキョー。 それが私の願うトーキョーの未来だ。もしかして、トーキョーはやっとそんな都市へと近づきつつあるのかもしれない。今ほど、暗がりの中で人のぬくもりが恋しいときはないのだから。 |
◎トーキョー・ストレンジャー──都市では誰もが異邦人│姜尚中│集英社│ISBN:9784087805987│2011年06月│評価=◎おすすめ
<キャッチコピー>
「都市とは自分の正体を目覚めさせてくれる場所である」。29の東京の風景とともに語る著者の人生・歴史・文化等に関する提言に、明日へのヒントが満載の書。
<memo>
30歳前後の都会で働く女性を対象にした雑誌『BAILA』に2007年~2010年に連載されたもの。
非日常空間としての明治神宮、国立新美術館、フォーシーズンズホテル丸の内、紀伊国屋ホールなど、モダン・ポストモダンとしての六本木ヒルズ、夏目漱石ゆかりの地など、3・11大震災以前のトーキョーの「記憶」である。
小泉今日子との対談が収録されている。
小泉 たまに1週間くらい東京に行かないこともあるんですが、久しぶりに出て行ったとき、高速道路を走りながら高層ビルとか見えてくると、笑いたくなるときがあるんです。「何か変なものがある!」って(笑)。サファリパークに来たみたいな感じになります。
姜 その感覚はすごくわかります。僕は、たまに夜遅くなって車で帰るようなとき、高層ビルの窓の明かりがホタルに見えるときがあるんです。こんな遅くまで働いている人たちがいるんだって、なんだかしんみりとしてしまうのだけれど、車の中から見る東京は、格別に都会の臨場感がありますね。
──著者は平凡な感慨を述べているに過ぎないが、小泉今日子の感覚は鋭い。
本書は、開高健『ずばり東京』(1964)、鹿島茂『平成ジャングル探検』(2003)などとともに時代を記録するノンフィクションである。著者をモデルにして東京写真集とも、若い女性への「今」の読み解き方を伝授したものともいえるが、むしろ2010年東京の29の「場所」の選定そのものが、貴重なノンフィクションであるといえる。
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