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2011.09.05

発掘本・再会本100選★気違ひ部落周游紀行│きだみのる

20110905

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読者が部落に来て英雄たちと話されたら次のやうな会話を聞く機会を持たれるであらう。

──あそこぢやあよ。食ふものがなくてよ、三度三度南瓜だとよ。だから見な。子供たちは元気がありやしねえや。

  

この話のとき読者が話者の語調の中に内心の喜悦が洩れるのを聞きのがされたら、音痴と云はれよう。

但しこんな話をする者がお米を食ってゐると判断されたら、それこそ大間違ひだ。

お米なんかあるものではない。彼或は彼女は甘藷或はじゃがいも組で南瓜には今では喰ひ飽きて喰はないといふだけの話である。

──「56  部落のよき風儀は如何なること要求するか」

◎気違ひ部落周游紀行│きだみのる1948年│吾妻書房│

<キャッチコピー>

日本の文学が持った初ての明るさ!様式の清新さ!慧智と、モラルとヒューマニズムとが、警抜な諷刺と軽快な諧謔と交響する異色の作風は遂に現代文学の最高水準を抜いた!(おび)

<memo>

 神戸の古本市で2011年に入手したのは、19493月発行の第7版である。本書は、1948年に第2回毎日出版文化賞。当時ベストセラーとなり、書名は知っていたが未読のまま。1957年に菊島隆三脚本、渋谷実監督で『気違い部落』として映画化。1951年、新潮文庫。1981年、富山房百科文庫。以後、「気違い」「部落」の用語からか出版されることはない。

「私がこれから読者を招待する部落は交通機関に頼るとすれば、東京から1時間半、次いでバス40分、そこから徒歩15分の位置にある」。現在の八王子市、南多摩郡恩方村の14所帯の一集落である。著者はこの村の廃寺を仕事場とし、集落で起こったできごとや農業と商売を兼ねた住民(機屋、薬草屋、山仕事、饅頭屋、植木屋、煙草屋、酒屋、猟師、山仕事、炭焼、大工、左官等)との交流を描いた。

疎開地の山村の日常を戯画的スケッチとややペダンチックな文明批評。映画では「ここを捨てたとて、日本中どこでもおなじだんべ」という台詞があるようだが、本書はこう書いてある。「条件を変えれば、これはあなたのことです」。

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