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2011.09.02

発掘本・再会本100選★俳人風狂列伝│石川桂郎

20110902

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伊庭心猿といえばわれわれ交遊のあった者には、すぐ永井荷風の小説『来訪者』が思いうかぶ。その登場人物のひとり木場が心猿である。

荷風の原稿、書簡、色紙、短冊などを偽筆して秘かに売り捌いていたことが知れ、偏奇館への出入りを差しとめられた、簡単にいえばそういう小説だ。〔…〕

死の五日前、「春燈」の片野久夫が心猿を見舞うと、すでに土気色の顔をし、痩せおとろえた心猿が、片野に「もし俺が死んだら、君の名でこの歌を発表してくれ」と言い、

いまは亡き伊庭心猿の家古りて表札はまだそのままなりき

の一首を示したという。生涯の災となった偽筆根性から、彼はついに抜けだすことができなかった。

──「伊庭心猿 此君亭奇録」

◎俳人風狂列伝 │石川桂郎│角川書店│1973/角川選書版:199107月│ISBN9784047030701│評価=◎おすすめ

<キャッチコピー>

ここに語られた11人の俳人は、すべて風狂の人であり畸人である。あるいは世俗に抗しあるいか俗塵にまみれながら、あくまでもおのれの詩境を守った俳人とその周辺が、著者の深い愛情と練達の文章で物語られ、事実は小説よりも胸をうつことを証している。(永井龍男)

<memo>

北村薫/宮部みゆき『名短篇ほりだしもの』で北村薫の“深読み”解説を参考に、石川桂郎『剃刀日記』の中の短編数編読んだ。石川桂郎といえば家業が理髪店で、「花の雨みもごりし人の眉剃(つく)る」「激雷に剃りて女の頸(えり)つめたし」の俳人である。26の短編が収録されているという『剃刀日記』(1942)の古書を探したが1万円、文庫版でも6,000円を超える売価なので手が出ない。

『俳人風狂列伝』は著者(19091975)と同年代の型破りの俳人たちを描いたもの。尾崎放哉、種田山頭火、西東三鬼のほかは上掲の伊庭心猿をふくめ知らない俳人ばかり。一句ずつ掲げる。

 蚊ばしらや吉原ちかき路地ずまひ・伊庭心猿/夜霧濃し看護婦ゆきて白残る・高橋鏡太郎/冬を生き人の遺品を身に纏ふ・岩田昌寿/ほほづき一ツ真赤な弱い男・岡本癖三酔/握飯(むすび)白く大きく勤労感謝の日・田尻得次郎/水洟や息の細りも火吹竹・松根東洋城/夕立に濡れ乾いて乞食なり・相良万吉/父情密冬菜の芯のほぐれぬ黄・阿部浪漫子

 それのしても、尾崎放哉42歳、種田山頭火59歳、西東三鬼62歳、上掲の伊庭心猿51歳など、今から見れば若い死である。

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