発掘本・再会本100選★映画三国志──小説東映│大下英治
* 岡田も、『日本侠客伝』の試写を見て、よろこんだ。 「これは、いける。高倉のリアルな迫力も、なかなかええじゃないか」 中村錦之助のピンチヒッターとしての起用が間違っていなかったことを、あらためて感じた。〔…〕 岡田は、俊藤にいった。 「鶴田で“博突打ちシリーズ”、高倉で“侠客シリーズ”をやろう。頼むで」〔…〕 この『日本侠客伝』を境に、錦之助と高倉は、明暗を分けていく。 俊藤は、ふと思うことがある。 〈もし『日本侠客伝』を錦ちゃんが主演で演じていたら、錦之助の俳優としての運命は変わっていたやろな。 鶴田同様に着流しやくざをみごとに演じ、十年は錦之助の時代が延びていたろうな……〉 高倉健主演の『日本侠客伝』は、昭和39年8月13日に封切られるや、爆発的にヒットした。 |
◎映画三国志──小説東映│大下英治│徳間書店│ISBN:9784191242104│1990年04月│評価=◎おすすめ
<キャッチコピー>
千恵蔵・右太衛門が大車輪。『きけわだつみの声』『ひめゆりの塔』の大ヒット。ひばり&錦之助。健サン・鶴田浩二・お竜さんの任侠路線。実録路線の『仁義なき戦い』。文太・欽也の『トラック野郎』。空前ヒットの『二百三高地』『柳生一族の陰謀』…etc。「スポーツニッポン」連載の『映画だけが人生だ』を加筆したもの。
<memo>
『映画三国志──小説東映』(1990)は、元社長・岡田茂が創立された東映に入社するころから1980年までをエピソードで綴った東映映画史である。ずっと気になっていたが文庫化されず、入手したのはずいぶん後である。
翌1981年には『東映映画三十年──あの日、あの時、あの映画』という全映画のスチール写真で構成した“社史”が東映から発行された(付録に、312作品の映画ポスターを一枚にしたポスターがあり、ルーペ付)。冒頭に寺山修司の詩が載っている。多羅尾伴内、網走番外地、緋牡丹のお竜、笛吹童子に触れ、「東映映画のスクリーンのなかの/心の旅路をふりかえると/三十年は、やるせない長い一瞬だ/さらば、さらば、一回かぎりの人生よ/また来る映画に、春がある」と結ばれている。
この2冊はわたしにとっても“やるせない長い一瞬”を振り返らせてくれる愛蔵本である。なお、岡田茂『悔いなきわが映画人生――東映と、共に歩んだ50年』(2001)がある。こちらは私的50年史である。
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