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2011.09.20

葉室麟◎恋しぐれ

20110920

*

句会の後、宴席になった時、蝶夢は文左衛門の傍らに来て酒を注ぎながら、

「あなたには俳諧の才がおありになる。鄙で埋もれるのは惜しゅうおすなあ」

と言った。文左衛門は苦笑した。

「とても、宗匠が務まるほどの器ではございません」〔…〕

「初めは皆、素人どす。それよりも、あなたは俳諧師にむいたものをお持ちや」

「俳諧師にむいたもの?」

「失礼ながら鬱するものをお持ちだとお見うけしました。

鬱を晴らすには、それを言葉にするしかありまへん」〔…〕

文左衛門の胸に蝶夢の言葉は響いていた。藩を放逐された時に、自分はこれから一生、虚しく過ごすしかないと思った。もし俳諧で身を立てることができれば、四十過ぎて新たに生き直せるかもしれない。

──「隠れ鬼」

◎恋しぐれ│葉室麟│文藝春秋│ISBN9784163299501201102月│評価=○

<キャッチコピー>

京に暮し、俳人としての名も定まり、よき友人や弟子たちに囲まれ、悠々自適に生きる蕪村に訪れた恋情。新たな蕪村像を描いた意欲作。

<memo>

月天心貧しき町を通りけり。さみだれや大河を前に家二軒。菜の花や月は東に日は西に。……蕪村の句が好きである。300年前のものと思われない。本書は、たとえば「牡丹散りて打ちかさなりぬ二三片」から『牡丹散る』など、蕪村の一句から一つの短編が生まれている。蕪村の辞世の句「白梅にあくる夜ばかりとなりにけり」を題材にした『梅の影』では、弟子の松村月溪の「白梅図屏風」のことが描かれているが、その屏風が本書の表紙に使われている。

葉室麟■ 銀漢の賦

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