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2011.09.19

三田完◎草の花──俳風三麗花

20110919

*

春泥を秘めたる庭や風の澄む

泥の汚れなど見えない場所がひそかに秘めた濁り──そんなものをちゑは詠みたかった。

世のなかに綺麗づくしのものなどないのだ。国も、家も、ひとも……。

句帖に書いてみた一句をしげしげと眺める。「風の澄む」がいかにもとってつけたような印象だ。だが、もう思案に疲れた。〔…〕

さらさらと幽かな音が聞こえる。

雨戸の一番端をほんのすこし開けてみて、ちゑは思わず声をあげた。

またしても雪が降りはじめている。こまかな粉雪が漆黒の空から襲いかかってくるようだ。

着物の下の肌が粟立った。街がさらに深い雪に覆い匿されようとしている。近い将来この雪が融けるとき、大地とともになにか怖ろしいものがあらわれそうな予感がする。

零時を回り、日付は226日になっていた。

──「春泥」

◎草の花──俳風三麗花│三田完│文藝春秋│ISBN9784163805306201105月│評価=○

<キャッチコピー>

子どもを身籠ったちゑ、満州に赴任する女医・壽子、浅草芸者の松太郎。戦火の下、句会で友情を育んだ3人の女性の凛とした生き方。

<memo>

『俳風三麗花』の連作続編。時代は昭和10年から敗戦まで。舞台は大陸に移り、満州国皇帝・溥儀、川島芳子、甘粕正彦も登場する上掲の雪の226日は、もちろん二・二六事件である。いかにも季語は春泥がふさわしい。

田完■ 俳風三麗花

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