佐野真一◎されど彼らが人生──新忘れられた日本人3
* 私は矢野にインタビューを申し込んでいた。するとすぐに矢野のほうから電話がかかってきた。矢野はその電話で、広島弁を丸出しにして、くよくよ、うじうじと、いつまでも言いつづけた。 「頼みますから、ダイエーの中内(功)さんのようにえぐらんといてください。解剖せんといてください。うちの会社はいまがピークで、あとは落ちる一方なんですから。 センセイにえぐられたら、会社はいっぺんで倒産です。〔…〕」 この哀訴を聞いて、私は矢野という男がいっぺんで気に入った。それでこそ「えぐりがい」がある人物というものではないか。 そう思って建物の入り口の方に目をやると、私の名前が入った真っ赤な垂れ幕と、やはり私の名前を染め抜いた歓迎の幟が国技館風にはためいている! 泣き落としの出迎えも初めてなら、垂れ幕と幟で熱烈歓迎されたのも初めてである。 ──「百円ショップ『ザ・ダイソー』社長・矢野博文」 |
◎されど彼らが人生──新忘れられた日本人3│佐野真一│毎日新聞社│ISBN:9784620320649│2011年06月│評価=○
<キャッチコピー>
首相候補ナンバーワンだった男の悲劇、ホームレスハウスをつくった元ヤクザ…有名無名を問わず50の人生に鮮烈なスポットライトを照らすノンフィクション版“人生劇場”。
<memo>
「発想の転換にうならされる商品もある。たとえば百円の国語辞典である。国語辞典で「山」や「海」をひくバカはいない。そこに着目し、日常語だけ集めたのが、コロンブスの卵だった。」(本書)
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