辺見庸◎生首
地蔵 〈昔 石工が地蔵さんを届けるときには 地蔵さんを後ろ向きに立たせて首に縄を巻き 背中合わせになってえっちらおっちら運んだ この要領で人の頸を紐で絞めあげると最も力がでるというので 非力な者や手足に障害のある者は地蔵背負いで屈強な男を絞め落としたというんだな 隻腕の父が飲んだくれの息子をこれで殺った例もあるという 彼女も彼と背中合わせになって絞めた そう自供している〉 〔…〕 彼女が頭に腰紐を巻かれたあの不身持ち男を背負って 前屈みになる 深々とお辞儀する 腰紐の両端をぐいと下に引く そのとき 彼女は何といったのか 〈どうだ思い知ったか〉ではないだろうな 幾度も幾度も お辞儀しながら その度に背中で反り返る彼に 優しく囁きかけたにちがいない 〈ごめんなさいね あなた ごめんなさいね〉 ──「地蔵背負い」 |
◎生首 詩文集 │辺見庸│毎日新聞社│ISBN:9784620319568│2010年03月│評価=○
<キャッチコピー>
天翔る生首とはなにか。切断された身体と記憶、実存から剥がれ無化された言葉はどこに流れていくのか……まがまがしい予感にみちた一冊。
<memo>
46篇のうち上掲のほか「入江」、また「箱」「葬列」「臓」「破瓜」など葬列を扱った連作に魅かれた。現代詩壇で著者の詩が受け入れられ位置づけられることはないのではと思ったが、第17回中原中也賞を受賞。「わたしたちが生きている世界のいまとここに、全存在をかけていることばの強度が並はずれていることだった。彼の詩には現代社会の腐敗し、機能不全に陥っている内臓が、鷲掴みされている臨場感がある」(同賞選考経過)。
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