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2011.10.03

団鬼六/黒岩由起子◎手術は、しません──父と娘の「ガン闘病」450日

20111003

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「皆集まってきて、鉄の棺おけの中を覗き込むんやろ」

どうも、父は自分が既に死んだと思い込んでいるのだ。納棺され、皆が花をたむけることをいっているらしい。〔…〕

「冗談はやめてくれ! 俺はさっき死んだんだ。気持ちは有難いが、死んだ人間を哀れと思って慰めてくれようとするな」

と抗うのだ。

父は言うことが通じない私たちに苛立ったのか、これならどうだ、という按配で、目の前の原稿用紙に鉛筆で大きく、

〈冗談はよせ、俺さっき死んだんだ〉と書いてみせた。続けて、〈鬼六人生 第一部了〉と書く。〔…〕

父は、いくら私が生きていると説明しても信じられない様子で、「うっそやー」と渋い顔をする。〔…〕

「そうだ! もしかしたら、一度はホントに死んで、生き返ったのかもよ」

と私が思いつきを言うと、父は不思議そうに腕を組んだ。

◎手術は、しません──父と娘の「ガン闘病」450日│団鬼六/黒岩由起子│新潮社

ISBN9784104178063201108月│評価=○

<キャッチコピー>

食道ガン発覚後も手術を拒否した奔放な父と、そんな父に振りまわされながらも献身的に見守る娘。告知、放射線治療、一進一退の症状、転移、そして家族に「遺されたもの」──病と向か合いながらそれぞれの思いを綴った、すべての親子必読の闘病記。

<memo>

たしかロバート・R. マキャモン『少年時代』だったと思うが、“老人が一人死ぬということは、図書館が一つ消失することだ”というフレーズがあった。先日50年を超える交遊をもつ友人の突然の訃報が届いた。私は彼の記憶を多くもつが、彼のもつ私の記憶は永遠に失われてしまった。それが図書館を一つ消失することなのだと気づいた。

本書はかつて75歳の時に「透析を受けるなら死んだほうがましだ」と思いつつ、“屈辱”の透析によって3年、今度は流動食以外嚥下出来ないという状態にながら、「まだ死にたくないという願望に打って変わるなど、おかしなことだと自分でも感じる」著者。そして手術を拒否し、何度も生き返り、花見やパーティを楽しみ、79歳で死去。大きな図書館が消えた。これは父と娘の愛の物語

団鬼六■ 我、老いてなお快楽を求めん――鬼六流駒奇談

団鬼六◎死んでたまるか

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