小野民樹◎新藤兼人伝──未完の日本映画史
* 新藤にとって、『裸の島』は人間の捉え方を逆転させた。 テーマに添って人間を描いた『原爆の子』『狼』『第五福竜丸』。社会を描くのにテーマを優先させた『縮図』『どぶ』。二方面での行き詰まりから、ドキユメンクリーの方法を追求したが壁に突当った。 そして『裸の島』は、真っ直ぐに「生きものとしての人間」に向った。 ただ生きている人間、希望も絶望も許されない、神のいない世界の人間である。 つぎには生の根源にある性に目を向けねばならないと思った。 |
◎新藤兼人伝──未完の日本映画史│小野民樹│白水社│ISBN:9784560081488│2011年08月│評価=◎おすすめ
<キャッチコピー>
日本映画界を代表する、最高齢の映画監督! その孤高の歩みを昭和史とともにたどる。シナリオも巧みに引用しながら史実を積み重ねた、決定版の評伝。全作品年譜・人名索引付。
<memo>
映画監督の伝記はたいていが熱い思いで叙述されるが、本書は静かな語り口で、新藤兼人の全体像を過不足なく描く。
新藤兼人(1912~)は、現在99歳。映画監督、脚本家。昨年『一枚のハガキ』を撮った。上掲の『裸の島』は1960年の作品。 瀬戸内海の水のない島で百姓をやっている一家の生活をドキュメンタリーのように描く。台詞はいっさいなし。本書によれば、シナリオには近代映協の同志たちの誰もが賛成しなかったという。台詞がなくて役者は二人、風前の灯のプロダクションがなぜあえて興行価値ゼロのものに挑戦しなくてはならないのかと。
ちなみに1960年度の「キネマ旬報ベスト10」。①市川崑『おとうと』②堀川弘通『黒い画集』③黒澤明『悪い奴ほどよく眠る』④木下恵介『笛吹川』⑤小津安二郎『秋日和』⑥新藤兼人『裸の島』⑦今村昌平『豚と軍艦』⑧山本薩夫『武器なき斗い』⑨記録映画『秘境ヒマラヤ』⑩大島渚『日本の夜と霧』。うち8本を見ているが、わがベスト3は、①おとうと、②豚と軍艦、③裸の島。
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