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2013.02.12

新田次郎/藤原正彦□孤愁 サウダーデ

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「ポルトガル人のあなたに、私が言うのはおかしいですが、ポルトガル人はサウダーデという言葉を多様に使っています。

別れた恋人を思うことも、死んだ人のことを思うことも、過去に訪れた景色を思い出すことも、十年前に大儲けをした日のことを懐しく思い出すのもすべてサウダーデです。そうではありませんか」

「そのとおりですが少々付け加えるとすれば、過去を思い出すだけではなく、そうすることによって甘く、悲しい、せつない感情に浸りこむことです」

モラエスは補足した。老人はそれに対して何度か領いたあとで、

せつない感情に浸りこむだけではありません。

 

その感情の中に生きることを発見するのがサウダーデじゃあないのでしょうか。

〔…〕

ひょっとすると、私は、いや日本人はポルトガル人以上にサウダーデ的かもしれませんよ。唯日本にはサウダーデと同じ気特があっても言葉がないだけです。私はそう考えております」

□孤愁 サウダーデ│新田次郎/藤原正彦│文藝春秋│ISBN:9784163817408│2012年11月│評価=○

〈キャッチコピー〉
ポルトガルの海軍士官・詩人モラエスは、日清戦争前夜に来日、美しい国土と人情におどろく。モラエスの眼を通して明治日本を描き、この国を深く考察した新田次郎の遺作。外交官モラエスが発見した日本の美と誇り。妻・およねへの愛に彩られた激動の生涯――。新田次郎未完の絶筆を、息子・藤原正彦が書き継いだ。

〈ノート〉
モラエス(1854-1929)は、ポルトガル・リスボン生まれ。海軍士官だったが、神戸で領事館の設置に尽力し、のち神戸・大阪駐在ポルトガル国領事。執筆活動を通し日本を海外に紹介した。のち神戸から徳島に移住し、そこで75歳の生涯を閉じた。

神戸東遊園地にモラエスの銅像があり、その近くの神戸市立博物館に記念の品が保存されている。
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本書はさらっとした感触のモラエスの評伝風小説だが、別に徳島を中心にモラエスの日々を赤裸々に描いたノンフィクション風小説に佃實夫『わがモラエス伝』(1983)がある。佃は神秘と伝説に満ちたモラエスではなく、徳島に住む等身大のモラエスの日々を描いている。

ところで本書『孤愁 サウダーデ』は、新田次郎が毎日新聞に連載中の1980年に急死したため、未完のままだった小説を、息子の藤原正彦が約30年後に書き継いだもの。なお、上掲は、新田の執筆した「外人墓地」の章から。

あとがきに「連載が始まり一年足らずで暴力的に中断させられたのである。父の無念を思い、冷酷な自然の摂理に怒り、その不条理に憤った」と藤原が書いている。“暴力的に中断”とあるから何かトラブルがあったのかと思うが、これは「突然の心筋梗塞」を指す。この大仰なところが、藤原の特徴である。

〈読後の一言〉
新田次郎から藤原正彦にバトンタッチした途端、 “品格”が落ちる文章になるのはやむを得ない。

〈キーワード〉
モラエス ポルトガル サウダーデ

〈リンク〉
藤原正彦●ヒコベエ


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