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2015.10.30

◎12そこに本があるから│T版 2015年8月~10月

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★青林堂編『創刊50周年記念 「ガロ」という時代』

長井氏の青林堂は、いわゆる貸本屋向けのマンガ本を出版してこられたのだが、東京で生まれ育った私は、東京にも貸本屋はあったけれども、ほとんど貸本屋に縁がなかった。しかし青林堂を中心とする貸本屋向けの本は、何冊も買って読んでいる。白土三平の「二年ね太郎」「忍法秘話」、水木しげるの「古墳大秘話」、といった本は、一般の書店でも売られていたのである。それは例えば手塚治虫が「落盤」という短編を寄せている劇画短篇集の本も同様で、貸本屋向けの本を私はふつうの書店で手にしていたのだった。(小野耕世)


★青林堂編『創刊
50周年記念「ガロ」という時代』△ 2014


青林堂編『創刊
50周年記念「ガロ」という時代』。伝説的サブカル漫画誌「ガロ」。19649月創刊号から200210月号までの全もくじ。

つげ義春、白土三平、水木しげる、滝田ゆう、林静一などの作家論を収録。あわせて創業者長井勝一氏を顕彰した“記念本”。

雑誌の興亡は編集長にあり。


★西山雅子『“ひとり出版社”という働きかた』

身銭を切って、しかも少部数で、一般に売りづらい本を出すには、自分でもよくよく考えて。

制作期間も長いので、そこまでのエネルギーを持続できるテーマかどうかが大事です。(里山社・清田麻衣子)


★西山雅子『“ひとり出版社”という働きかた』〇
2015

 2001年に若くして亡くなったノンフィクション作家の『井田真木子著作撰集』を出版した里山社に興味をもって手にした。

フリー編集者として他社の仕事で生計を立てながらの30代女性のひとり出版社だった。

10社それぞれ志は違うが、継続は力なり。奮闘を祈るや切。


★渡部雄吉写真集『張り込み日記』

この写真集にはトリックが使用されている。嘘というべきだろうか。

事件の解決までを体験できるような造りにしたかった。そのため、写真の時間軸と、合間にはさまれているテキストの時間軸を、意図的にずらしている。(乙一)


★渡部雄吉写真集『張り込み日記』△
2014

 1958年水戸市で起こったバラバラ殺人事件。ベテラン、若手二人の刑事が手掛かりを追って東京へ。その二人に密着したドキュメント写真集。

しかし戦後を色濃く残す背景に写真の価値を見出した乙一は、この実録写真で虚構の物語をつくる。

写真の撮影期間は20日間ほど。事件は解決していなかった。だが本書では事件が解決したようなキャプションで構成する。

タイトルは正確には“聞き込み偽日記”では? 渡部雄吉(192493)の写真、こんな使い方をされていいのか。


★キノブックス編集部『本なんて!――作家と本をめぐる52話』

現実と夢の落差がもたらす緊張関係の中にのみ、読書の成立の根拠があるのであって、それ以外は本という物質を眺めるだけの行為にしかすぎない。多くの人々はそのようなものを読書と勘ちがいしてきたのである。(紀田順一郎)


★キノブックス編集部『本なんて!――作家と本をめぐる
52話』◎2015


『本なんて!――作家と本をめぐる
52話』』は52人の作家による本に関するエッセイのアンソロジー。

キノブックス編集部の“選球眼”は見事というほかない。

鈴木清順、本はよむものでなくみるものだ。土屋賢二、書店とトイレの謎を解く。田村隆一、昔話復讐譚の改ざんを嘆く。西村賢太、無菌室のように本を保存する。山田風太郎、ドクショに空費していたらたいへんだ。


★平野義昌『海の本屋のはなし――海文堂書店の記憶と記録』


新聞が一面で取り上げて、さらに特集コラムの連載までしてくれました。なぜそんなにニュースになったのでしょうか。〔…〕そんなにエエ本屋やった?エエ本屋やったら潰れませんがな。漬しませんて。


★平野義昌『海の本屋のはなし――海文堂書店の記憶と記録』〇
2015


神戸の海文堂書店は
20139月末に閉店廃業いた。

『海の本屋のはなし――海文堂書店の記憶と記録』は、最後の店員による社史ふう備忘録。書店2階にギャラリーや古書店を置いたりし、狭くなく広くなく適当な規模の老舗書店。

廃業で大騒ぎしたのはメディアと客の郷愁に過ぎなかったと思う。帆船のペン画の二つのブックカバーがなつかしく、いとおしいと思うように。


★池永陽一『学術の森の巨人たち――私の編集日記』


人気作家の小説となると、
1冊で何十万部になるものもあるが、学術書では対象読者が限られるため、多くてもせいぜい数千部である。少ないのは何百部しかないのもある。それは学術書の宿命でもある。文庫を入れても万を超す部数のものは数えるほどしかないし、売り上げに大きな差が出てくるのは当然のことだった。


★池永陽一『学術の森の巨人たち――私の編集日記』〇
2015


『学術の森の巨人たち――私の編集日記』は、元講談社学術文庫出版部長の熊本日日新聞連載コラム「ある日あの人」の書籍化。出身地の熊本自慢の本でもある。

俳句の本だけで10冊ほど手元にある学術文庫だが、本書にも記述のある阿部宵人『俳句――4合目からの出発』は俳句を生半可にかじった人間にとって衝撃の書だった。ショックで数か月句作ができなかった記憶がある。


★長田弘『本に語らせよ』

 


読むともなしに読むという、散歩するように読むことのできる楽しみが、よい散歩道のよい光景のように、そこここにある。そういう楽しみを求めて開くのは、たいてい句集である。
(「幾霜を経て」)

★長田弘『本に語らせよ』△2015


石光真清『城下の人』
4部作のことが知りたくて、本書収録の「『城下の人』の語る歴史」を読んだのだが、全文でなく抜粋らしい。上掲は、猫の句について書いた短文、その末尾は以下。

――「幾霜を経て猫のなつかしき」。ずっとそう覚え込んでいたが、あたってみたら、加藤楸邨の句は、「猫」でなく「先生」だった。でも、間違いではない。わたしの「先生」はいつも「猫」だった。(「幾霜を経て」)


★信濃毎日新聞社『本の世紀――岩波書店と出版の100年』


山は人々を隔てる一方、山に囲まれているからこそ、その向こうに何があるのか、どんな世界が広がっているのかという、好奇心や探求心が生まれるのかもしれません。だからこそ山に囲まれた信州は、岩波書店を創業した岩波茂雄をはじめ、多くの出版人を輩出してきたのでしょう。


★信濃毎日新聞社『本の世紀――岩波書店と出版の
100年』〇2015


岩波書店の岩波茂雄は諏訪市、筑摩書房の古田晃は塩尻市、みすず書房の小尾俊人は茅野市、理論社の小宮山量平は上田市と、出版界に多くの人材を輩出し、出版王国とも言われる長野県。

岩波100年の歩みとともに近現代史を縦断する。本をとりまく現在と未来、本にまつわる地元の活動……、地元新聞社文化部の出版文化への熱い思いも伝わってくる。

 

 

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