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2015.11.30

松本創★誰が「橋下徹」をつくったか――大阪都構想とメディアの迷走

20151130


 言論や報道の手法の問題も大きい。

「改革派」「抵抗勢力」といったレッテルを貼ってバトルを煽る。「激論」「徹底討論」などと称して、声の大きい者がその場を制することをよしとする。


極論や暴論であっても、わかりやすい断言や直言を面白がる。

物事を単純化し、善悪や白黒の結論を急ぐ

 

目先の話題やニュースを競って追いかけるが、立ち止まったり、振り返ったりして検証することがない。

 


★誰が「橋下徹」をつくったか――大阪都構想とメディアの迷走│松本創140BISBNコード: 9784903993232201511月│評価=◎おすすめ│メディアを思うまま操る橋下徹と操られるメディアを批判する。

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 上掲はテレビや新聞を批判したものだが、そっくり橋下徹にあてはまる。メディアと橋下はあわせ鏡で相似形なのである。そのうえで付け加えれば、橋下は平気で嘘をつく、平気で前言を翻す、平気で汚い言葉をつかう。

 

 ――在阪メディアにとって、当初は身内であり、同志であり、得難い取材対象であり、おいしいコンテンツであった橋下は、しかし、やがて大きな脅威となっていく。〔…〕世論を喚起する訴求力を備えた“人間メディア”たる橋下は、世の中に鬱積していたマスメディア不信をバックに、鋭い刃を向けてきた。(本書)

 本書は、橋下徹批判と大阪の新聞・テレビ批判の書である。

 


  以前、当ブログで本年5月「大阪都構想」の住民投票に敗れたとき、「橋下が政界引退を表明した途端、地元の新聞、テレビは“べたほめ”に変わった。しかし退陣をいちばん喜んだのは、反対陣営や府市職員ではなく、橋下に翻弄され続けた大新聞の大阪本社の連中だろう。それほど大阪のメディアは情けなかった」と書いた。 


 ところが、大阪発の全国発信は橋下しかおらず、大阪のとくにテレビはこぞって橋下ラブコール、
11月の知事市長ダブル選挙で維新が勝つと大喜びをした。市長退任後を話題にし、「もしかして紅白歌合戦のゲストに?」と媚びる記者が出る始末。


 本書でも詳しく触れられているが、
20135月、朝日新聞労働組合主催の「言論の自由を考える53集会~対話がきこえない 「つながる」社会の中で~」は、さながら朝日新聞“激励集会”の観を呈した。パネリストには、安田浩一、開沼博、小田嶋隆、朝日新聞論説委員の稲垣えみ子、コーディネーター津田大介という顔ぶれ。


 当日のメモを探したが見つからないので記憶だけで書くと、大阪社会部デスクを経験した稲垣が「橋下の記事が載ると、なぜ橋下をいじめるのかと電話が鳴りっぱなしになる」という主旨の話があった。朝日という良識の府、世論をリードすると自負するエリート記者たちは、読者の動きに当惑し、どう対処すべきか、扱いあぐねているという印象であった。


 最近の若い人は「信頼できる情報源」の
1位がテレビという恐るべき調査結果もあるが、若い人は新聞を読まないので、おそらく朝日に電話をかけるのは高齢者だと思われる。


 ほぼ半年前の
201210月に、週刊朝日ハシシタ騒動が起り、橋下はテレビの前で、深々と頭を下げる屈辱的な朝日関係者の場をつくった。従軍慰安婦「吉田証言」、東電福島「吉田調書」問題で朝日を揺るがし、社長が謝罪に追い込まれ、朝日のブランドが地に落ちたのは1年半後であった。しかしそれ以前から朝日は読者にゆさぶられていたのである。口が八つあるようなモンスターになった橋下と同じ発言を大阪の橋下信者がしだしたのである。記者って何様のつもりだ、選挙に通ってから言え、と。


 そして東京のメディアが、橋下は煩わしい、面倒だとスルーし、冷ややかに大阪を見ている間に、橋下はたちまち野党第2党の代表になっていた。


 話はそれるが、大阪の人が“関西”というとき、それはイコール“大阪”のことであり、自信のないときは“京都・神戸”を含める。したがって大阪のテレビは、大阪が中心で、隣接府県は近くの行楽地程度にしか扱わない。報道局のニュースと制作局のワイドショーが合体しており、吉本のお笑いタレントがコメンテーターとして大きな位置をしめる。夕方の番組では、よみうりテレビ(日テレ系)は橋下べったり、
ABC(テレ朝系)も陥落し、関西テレビ(フジ系)も反橋下だったキャスターが退職し、今ではMBS(TBS)のみが及び腰ながら若干の橋下批判で奮闘している。橋下の言動を毎日見せられ“京都・神戸”の人はうんざりし、ますます“大阪嫌い”が高じる。


 市長の橋下は、朝夕の登退庁時にぶらさがり取材に応ずる形式で記者会見し、これは任意なので気に入らないことがあると、その社の質問は許さないし、固有名詞入りで罵倒したりする。記者クラブの弊害が問われて久しいが、そのデメリットを上回る権力者が取り行う会見の恐ろしさである。


 内田樹をはじめ
100人の学者が大阪都構想に反対しても、市民は耳を傾けなかった。当方は、こうなれば特別区と“都”への膨大な経費負担で破産する大阪の姿を見たい気もする。


 松本創は、西岡研介、角岡伸彦と同じく元神戸新聞記者。大阪から距離をおいたトリオで、橋下府政・市政の荒廃とコミュニティの破壊を書いてしいと願っていたが、本書は橋下と大阪メディア批判本。


 講談社系のネットメディア「現代ビジネス」、ノンフィクション雑誌「
G2」に掲載したものを基にしているが、なぜか自費出版に近いかたちで出版されている。あえてベスト10に推す理由である。

 

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