« 松本創★誰が「橋下徹」をつくったか――大阪都構想とメディアの迷走 | トップページ | 2015年■傑作ノンフィクション★ベスト10=補遺・ノンフィクションの話題 »

2015.12.03

2015年■傑作ノンフィクション★ベスト10

2011年■傑作ノンフィクション★ベスト10

 2012年■傑作ノンフィクション★ベスト10

 2013年■傑作ノンフィクション★ベスト10

 2014年■傑作ノンフィクション★ベスト10

 2015年■傑作ノンフィクション★ベスト10

 2016年■傑作ノンフィクション★ベスト10

読書量が減った。ネットで本を購入することが多くなり、本屋で思わぬ本に出合う機会が少なくなったのが一因だと思われる。が、なんとかことしも傑作ノンフィクションベスト10を選んだ。201412月から201511月までに読んだ本の中から、出版年月順に。

201510_3

 

◎ひみつの王国――評伝石井桃子|尾崎真理子


 尾崎真理子★ひみつの王国――評伝石井桃子 

 

「石井桃子は子ども好きだっただろうか?」。

私は石井にゆかりの人々に取材するたびにこの質問を繰り返した。すると、ほぼ全ての人々から「ノー」に近い答えが返ってきた。

石井は子どもだからと言って、特別に関心は持たなかった。


★ひみつの王国――評伝石井桃子|尾崎真理子
|新潮社|ISBN9784103358510|児童文学の範疇に収まらない多彩な石井桃子の生涯。

**

石井桃子の評伝、101歳の生涯を500ページを超える大冊に綴ったもの。

当方、新聞記者の文章は長文には向かないので嫌いだが、この著者の文章は文学的でも抽象的でもないが、具体的にかつ資料的価値を丁寧に伝えようという意思が働いていて好ましい。

 

そのうえ「石井桃子は子ども好きだっただろうか?」と投げかけるなど、第一級の評伝である。



◎宿命の子――笹川一族の神話│高山文彦

 高山文彦★宿命の子――笹川一族の神話 

 「戦後最大の被差別者はだれだと思いますか? ……私にとって、それは笹川良一をおいてほかにありません。


 40歳からの私の人生は、彼がうけたいわれなき途方もない差別、その汚名を晴らすためにあったんです」



★宿命の子――笹川一族の神話│高山文彦
│小学館│ISBN9784093798631201412月│「日本のドン」の汚名を背負った笹川良一、ハンセン病制圧を担う笹川陽平の父と子の物語。

**

 日本財団会長に曽野綾子がになって、これまでジャーナリズムがさかんに流布してきた言説「右手で汚れたテラ銭を集め左手で浄財として配る」をメディアは二度と口にしなくなる。財団幹部たちは曽野会長になっても基本的なことは変わっていないのに、ジャーナリズムの変貌ぶりに、悔し涙を流したという。

 

著者は、広報係にならないぞとの意地で日本財団笹川陽平の取材を始めて、5年。陽平の無私の旅に同行しつつ、ここに“紙の記念碑”としてこの笹川陽平伝を上梓。父の悪名をはらす子の物語、ハンセン病制圧の闘い、戦後日本の裏面史として興味津々のエピソードが綴られている。



◎捏造の科学者――
STAP細胞事件│須田桃子

 須田桃子★捏造の科学者――STAP細胞事件 

小保方氏への遺書にあったという「絶対にSTAP細胞を再現してください」という言葉も謎を残した。〔…〕

 ある研究者は、小保方氏への遺言について、メールにこう記した。

「足かせを一生かけたとしか思えません。はいたら踊り続けなくてはならない『赤い靴』ですね」



★捏造の科学者――STAP細胞事件│須田桃子
│文藝春秋│ISBN9784163901916201501月│iPS細胞を超える発見が科学史に残るスキャンダルになるまで。

**

2014129日の衝撃的な“世紀の大発見”STAP細胞の記者会見以降、本書が書かれた11月半ばまでに、毎日新聞の第一面に掲載された関連記事は35回に及ぶという。論文関連記事でこの多さは恐らく例がないだろう。

 

 本書は毎日新聞東京本社科学環境部記者によって、同社のチームによる取材をもとに、その一部始終を丁寧に記述したもの。科学記者として正確さと分かりやすさを心がけ、決してセンセーショナルなとらえ方はしない。



◎未完の平成文学史――文芸記者が見た文壇
30
年│浦田憲治

 浦田憲治★未完の平成文学史 

難解で高級なのが純文学で、面白いが通俗的なのがエンターテインメントだとはいえなくなった。〔…〕

しかし、私は文学とエンターテインメントには本質的な違いがあると考える。作家の志や姿勢、文体や表現、方法や構造などを精緻に見ていけば明らかな違いがあるからだ。


★未完の平成文学史――文芸記者が見た文壇30年│浦田憲治
│早川書房│ISBN9784152095282201503月│平成文学を俯瞰する魅力的なガイドブック。

**

元日経記者による平成文学の記録であり記者生活の回想記。大江健三郎のノーベル文学賞受賞、村上春樹の本がベストセラーとなるのが話題で、大きな文学的事件はない平成時代の文学を見事に俯瞰したまことに便利で魅力的なガイドブックである。

 

著者が新聞記者でニュースを追うことから文学賞受賞に話題が偏りがちだが、しかし同時に授賞時のインタビューなど旬の作家の肉声が多く収録されており、功成り遂げて評価の定まった作家を並べた文学史とは趣きを異にする。



◎牛と土――福島、
3.11その後。│真並恭介

真並恭介★牛と土――福島、3.11その後。 

「第一原発の排気筒が見えるこの牧場は、被曝のメモリアルポイント、歴史遺産のような場所ですよ。

ここで牛を飼いながら、自分が体験したこと、浪江町で実際に起きたことを、生の声で伝えていくことが、おれの残り20年の人生だと思っている」




★牛と土――福島、3.11その後。│真並恭介
│集英社│ISBN9784087815672201503月│福島で“廃棄物”となった「牛と土」を蘇らせようとする牛飼いや研究者たちを追う。

**

警戒区域に生存する牛は、家畜でなく、野生動物でなく、ペットでなく、実験動物でなく、展示動物でなく、どれにも属さず前途も断たれている。また、「動植物を育み、生態系の基盤であった土は、汚染された邪魔物となってしまった。廃棄されざる廃棄物となったのだ」(本書)

 

 汚染された大地と牛たちを蘇らせる牛飼いと研究者たちの矜持を著者は鮮やかに描き、3.11によって失われたものの大切さを問う。著者が少し感傷的になっているときの記述もいい。


◎浅草の勘三郎――夢は叶う、平成中村座の軌跡

荒井修★浅草の勘三郎――夢は叶う、平成中村座の軌跡 

これまで、こんな弱気な言葉をこの男から聞いたことがなかったので、自分の耳を疑った。〔…〕



「お客を喜ばせることにあんなに努力を惜しまない役者は、勘三郎のほか二度と出ないんだよ。

あんまり俺を悲しませるなよ」




★浅草の勘三郎――夢は叶う、平成中村座の軌跡
│荒井修│小学館│ISBN9784093884150201504月│これが勘三郎。これが浅草。

**

浅草育ちで歌舞伎好きの扇職人と浅草をこよなく愛する歌舞伎役者との友情物語である。著者は浅草仲見世に120年続く舞扇の老舗「荒井文扇堂」四代目店主。18代中村勘三郎の7歳年上の友人にして私的プロデューサーの役割を果たす。

 

勘三郎の夢やアイデアを実現すべく、浅草公会堂での歌舞伎公演や隅田公園内に江戸時代の芝居小屋を模した平成中村座の設営に、著者は奔走する。

それにして勘三郎は天才。その心意気に応えていく著者は浅草っ子の面目躍如である。


◎原爆供養塔――忘れられた遺骨の70年│堀川惠子

堀川惠子★原爆供養塔――忘れられた遺骨の70 

哀しみも喜びもみな自分が作るの、人が作るんじゃない。〔…〕

強くならんといけないね、強ければ相手に優しくできるでしょ。ひとりひとりの心が強くなれば、戦争だって起きんのよ。大切なのは力じゃなくて、心じゃからね。

 
★原爆供養塔――忘れられた遺骨の70年│堀川惠子│文藝春秋│ISBN9784163902692201505月│これまで語られることのなかったヒロシマ、死者たちの物語。

**

当方恥ずかしながら原爆供養塔があるのを知らなかった。その供養塔には7万の遺骨がまつられている。佐伯敏子さんは、引き取り手なき遺骨をまもる孤独な活動を永年にわたり行ってきた。上掲はその佐伯さんの言葉。

 

著者が訪ね歩いた遺族たちへの視線のなんと暖かいことだろう。著者のノンフィクションは、いつも当方の胸を激しく打つ。


◎真説・長州力 19512015│田崎健太

田崎健太★真説・長州力 1951―2015

「人間はみんな永遠に酒を飲めると思っているんでしょうね。やっぱり勢いがいいときは、どんな仕事の世界でも旨い酒を飲めます。



でも、いつまでも旨い酒は飲めない。だんだん透明になって底が見えてきた」


★真説・長州力 19512015│田崎健太
│集英社インターナショナル│ISBN9784797672862201507月│幼馴染から大物レスラーまで多くの証言で迫る「人間・長州力」

**

当方にとってプロレス本といえば、村松友視→井上義啓→柳澤健という流れだった。しかしプロレスが演劇に似ているとはいえ、どれも著者が作った知的遊戯の舞台を見物している観があった。

 

ところが本書は、マニアには突っ込み不足で不満が残るかもしれないが、長州力という人物とその時代のプロレスの興亡を描いた正統派ノンフィクションであり、一級品である

◎満映とわたし│岸富美子・石井妙子

岸富美子・石井妙子★満映とわたし

 

「日本軍がこんな酷いことをしたとは、とうてい思えません……」〔…〕

「岸さん、実は、これは私が実際に体験したことなのです。留守中、日本軍が入ったと聞き、慌てて戻ると村は全滅していたのです。私の親兄妹も全員が日本軍によって虐殺されていました」


★満映とわたし│岸富美子・石井妙子
│文藝春秋│ISBN9784163903149201508月│満映の崩壊と敗戦後抑留者の大地での日々。

**

岸富美子の手記『私の映画人生』をもとに、石井妙子がリライトし、章ごとに解説、注を加えたもの。

 

満映(満洲映画協会)が取り上げられるとき、これまで甘粕正彦、李香蘭が主役、内田吐夢、大塚有章が脇役で、“鳥瞰図”のように描かれてきた。だが本書は映画編集者岸富美子とその家族が主役、脇役内田吐夢、大塚有章、端役甘粕正彦、李香蘭で“虫瞰図”(大森実の造語)のように描かれる。

◎誰が「橋下徹」をつくったか――大阪都構想とメディアの迷走│松本創

松本創★誰が「橋下徹」をつくったか――大阪都構想とメディアの迷走

 



 言論や報道の手法の問題も大きい。

「改革派」「抵抗勢力」といったレッテルを貼ってバトルを煽る。「激論」「徹底討論」などと称して、声の大きい者がその場を制することをよしとする。

極論や暴論であっても、わかりやすい断言や直言を面白がる。物事を単純化し、善悪や白黒の結論を急ぐ。

 

目先の話題やニュースを競って追いかけるが、立ち止まったり、振り返ったりして検証することがない。


★誰が「橋下徹」をつくったか――大阪都構想とメディアの迷走│松本創
140BISBNコード: 9784903993232201511月│メディアを思うまま操る橋下徹と操られるメディアを批判する。

**

 上掲はテレビや新聞を批判したものだが、そっくり橋下徹にあてはまる。メディアと橋下はあわせ鏡で相似形なのである。

そのうえで付け加えれば、橋下は平気で嘘をつく、平気で前言を翻す、平気で汚い言葉をつかう。本書は、橋下徹批判と大阪の新聞・テレビ批判の書である。

 

橋下は大阪都構想の効果額は「最低でも年間4000億円」といい、のちに「1億円程度」まで下げ、「カネの問題ではない」と言い出す始末。当方は、こうなれば“特別区”と“都”の膨大な経費負担で破産する大阪の姿を見たい気もする。

*

*

*

 

2015年■傑作ノンフィクション★ベスト10=補遺・ノンフィクションの話題

 

 

 

|

« 松本創★誰が「橋下徹」をつくったか――大阪都構想とメディアの迷走 | トップページ | 2015年■傑作ノンフィクション★ベスト10=補遺・ノンフィクションの話題 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 2015年■傑作ノンフィクション★ベスト10:

« 松本創★誰が「橋下徹」をつくったか――大阪都構想とメディアの迷走 | トップページ | 2015年■傑作ノンフィクション★ベスト10=補遺・ノンフィクションの話題 »