2015年■傑作ノンフィクション★ベスト10=補遺・ノンフィクションの話題
ベスト10には選ばなかったが、楽しませてくれたノンフィクション(2014~2015年発行)の数々を発行年月順に。
2008年に書かれたものだが、2015年1月イスラム国(ISIL)で殺害されたジャーナリストの記憶のために。
天声人語。新聞が若かった時代、惜しまれつつ早世した伝説のコラムニストがいた。
中山千夏★芸能人の帽子――アナログTV時代のタレントと芸能記事
70年代に芸能記事の餌食となった千夏が自ら当時の記事を検証する“ひとりオーラルヒストリー”。
こちらとあちらは紙一重。人生の受動と能動が転換する、その境目。
角岡伸彦・西岡研介・家鋪渡・宝島「殉愛騒動」取材班★百田尚樹『殉愛』の真実
百田尚樹の「純愛ノンフィクション」、その疑惑とウソを徹底解明!大手週刊誌が1人の作家に完全敗北するというジャーナリズム史上最悪の言論事件。共著でなければベスト10第1位。
極北の地から捕鯨、温暖化、核実験……、主張するノンフィクション。2010年発行だが、2015年にKindle版が。
重度認知症治療病棟……、認知症を”救い”の視点から見直す。
ロンドンでの亡命チェコ人による“知の個人授業”。若き著者の自己形成物語。
“戦争詩”批判で「忘れられた詩人」になってしまった抒情詩人の生涯を娘が全力投球で描く。
「私は事件を追う。記者クラブ員は官庁を追う」。桶川事件、足利事件のジャーナリストが報道の原点を問う。
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2015年補遺:ノンフィクションの話題
昨2014年の話題に「ノンフィクション作家による名著の紹介」として4冊を紹介したが、思えばあれはノンフィクションへの「仰げば尊し」であり「蛍の光」であった。
ノンフィクションは苦境にあるとしたが、現在は消滅寸前である。いい作家、いい作品が現れないというより、作品が荒廃し出したのである。以下、昨年12月以降の“作品の荒廃”ぶりを、順不同で。
まず、★佐野眞一『ノンフィクションは死なない』│T版(2014.12)は、2013年週刊朝日の“ハシシタ騒動”や『ノンフィクションの「巨人」佐野眞一が殺したジャーナリズム』(2013.5)への“弁解の書”。言い訳や過去の自慢話はもういい。佐野ファンとして情けなかった。
その前に百田尚樹『殉愛』(2014.11)が出た。百田は「わたしも、ノンフィクション書くとき、平気でいっぱいウソ入れてます。ほんまにそのまま書いたら、おもろない」と発言した。ノンフィクションも舐められたものである。だが角岡伸彦・西岡研介・家鋪渡・宝島「殉愛騒動」取材班★百田尚樹『殉愛』の真実 (2015.03)以外に有力な反論に乏しかった。
問題は、人気作家にそっぽを向かれたくない大手出版社、とりわけ「週刊文春」「週刊新潮」は全面降伏し、百田に媚を売り続けた。以来この週刊誌は精彩を欠き、正義面した記事が載っても信用されなくなった。
神山典士★ペテン師と天才――佐村河内事件の全貌 (2014.12)は、大宅壮一ノンフィクション賞を雑誌部門で受賞した「全聾の作曲家はペテン師だった!ゴーストライター懺悔実名告白」(週刊文春)をもとに単行本化したもの。ところが神山には★こうやまのりお『みっくん、光のヴァイオリン』│T版 (2013)というこの全聾の作曲家を絶賛した著書があり、マッチポンプの張本人であるにかかわらず自分も“被害者”であると書き、また言い訳の★神山典士『ゴーストライター論』│T版 (2015.04)を出した。
★柳美里『貧乏の神様――芥川賞作家の困窮生活記』│T版(2015.03)によれば、良心的な出版人と思っていた『創』の篠田博之編集兼発行人は、長年にわたる原稿料未払いを柳美里に公表されると、零細企業の親父が脱税の言い訳するような醜い発言を繰り返す。メディア批評誌がブラック企業だったとは。
5月には『G2』第19号が判型をかえて出たが、最終号となった。ノンフィクション・メディアの未来についての考察はあるが、ノンフィクションそのもののこれからについては空白であった。「月刊現代」後継ノンフィクション誌として2009年に創刊されたが、実売3,000部にまで落ち込んでいたという。
このほかの話題をいくつか。
元少年A★絶歌 (2015.06)は、出版倫理の面から賛否両論があった。ただ地元の図書館が所蔵しないとしたことに疑問が残った。事件当時から少年Aに多大の“被害”をうけた地元住民の知る権利を保障するのは、地元図書館の責務である。
佐々涼子■紙つなげ!彼らが本の紙を造っている――再生・日本製紙石巻工場 (2014.06)は、3.11で被害を受けた書籍用製紙工場だから、出版社や書店が宣伝するのはわからぬではないが、復旧、復興へ“企業あって地域なし”の不快な印象を受けた企業PR本だった。『ノンフィクションはこれを読め! 2014』(2014.10)でベスト本に選ばれているのも不可解だ。
さて、ノンフィクションはどこへ向かうのか。
おそらく取材にカネのかからぬもの、しかし人間に興味を持ち続けるとすれば、「評伝」ではないか。当方が本年選んだベスト・ノンフィクションも多くが評伝である。ただし★曲沼美恵『メディア・モンスター―誰が「黒川紀章」を殺したのか?』│T版 (2015.04)のような人物へのリスペクトもなく、年譜もなく、極端に言えば長文のコピペとコピペの間に著者が短い接続詞を挟んだような評伝は願い下げである。
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