« 岩瀬達哉★ドキュメント パナソニック人事抗争史/立石泰則★パナソニック・ショック | トップページ | 発掘本・再会本100選★従軍慰安婦・続従軍慰安婦│千田夏光 »

2015.12.31

朴裕河★帝国の慰安婦

20151231_2

幸いにも20138月に韓国で出版した『帝国の慰安婦-植民地支配と記憶の闘い』には、多くのメディアがまじめな関心を示してくれました。ほっとしましたが、その後韓国でわたしの問題提起が広く公論化されることはありませんでした。〔…〕

 

2014年〕6月中旬、元慰安婦の方たちの名誉を毀損したとして、韓国の支援団体から本の出版差し止めと損害賠償などを求めて、民事・刑事で提訴・告訴されるという事態が発生しました

 

原告は元慰安婦の方々の名前になっていますが、実質的には慰安婦たちの休息空間「ナヌムの家」の管理所長とその依頼を受けた「ナヌムの家」の顧問弁護士による提訴・告訴でした)

 

――日本語版のための序文

 

★帝国の慰安婦――植民地支配と記憶の闘い│朴裕河(パクユハ)│朝日新聞出版│ISBN9784022511737201411月│評価=◎おすすめ

*

 ソウル東部地検は『帝国の慰安婦』の内容が、①元慰安婦の人格、名誉を著しく毀損し学問の自由を逸脱、②「元慰安婦には日本軍人と同志的関係にあった者もいた」という記述は虚偽、であると判断し、著者の朴裕河を名誉毀損罪で在宅起訴した。

これに対し、ソウル東部地裁は、「『朝鮮人慰安婦』の苦痛が日本人売春婦の苦痛と基本的には変わらない」「『慰安婦』たちを『誘拐』し、『強制連行』したのは、少なくとも朝鮮の地では、また公的には日本軍ではなかった」など34カ所の削除を求めるなど、名誉棄損を部分的に認め、仮処分判決を下した。

本書の著者は、1957年ソウル生まれ、韓国・世宗大学校教授。慶応や早稲田で日本文学を専攻。本書は学術書、歴史書ではなく、慰安婦問題を解決するために韓国、日本の両面から問題点を探ったもの。韓国語版と日本語版とは内容が若干異なるらしい。

 当方が注目したのは、「20万人の少女たちが日本軍に強制的に連行され、性奴隷にされた」という“集団記憶”をつくった韓国挺身隊問題対策協議会(以下、挺対協)のこと。

 本書を読了して間もなく、国交正常化50年の終わりが近づいた20151224日、「安倍首相は、岸田外相に韓国を年内に訪問し、尹炳世(ユンビョンセ)外相と協議を行うよう指示した」というニュースが流れ、あっという間もなく同28日、両国外相協議により“電撃的”に慰安婦問題は合意に達した。

 ――日韓外相会談後の共同記者発表によると、日本政府は同問題への旧日本軍の関与を認め、「責任を痛感」するとともに、安倍晋三首相が「心からおわびと反省の気持ち」を表明。元慰安婦支援のため、韓国政府が財団を設立し、日本政府の予算で10億円程度の資金を一括拠出する。合意に基づく解決策が「最終的かつ不可逆的」であることも確認した。(時事通信)

 ――岸田氏は共同記者発表で、慰安婦問題について「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。今後、国連など国際社会で、本問題について互いに非難、批判することを控える」と表明。尹氏も合意事項の履行を前提に、「この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する」と述べた。

  また、ソウルの日本大使館前に設置された慰安婦問題を象徴する少女像について、尹氏は元慰安婦支援団体「韓国挺身(ていしん)隊問題対策協議会(挺対協)」を念頭に、「関連団体との協議などを通じて適切に解決されるよう努力する」と語った。(同)

 さて、挺対協の“力”がもっとも注目されたのは、2011年。慰安婦問題の解決のために日本に働きかけないのは憲法違反との憲法裁判所の判決を受けて、李明博(イ・ミヨンバク)大統領みずからが野田佳彦首相に対して「人道的措置」を提案した。日本側も受け入れ、解決したかに見えた。が、挺対協は「法的賠償=国会議決による謝罪と陪償」を要求し、李明博政権を「骨の髄まで親日」と激しく非難した。韓国政府は結局、みずから解決を迫っておきながら「支援団体の意向」を気にして協定締結を直前になってキャンセルした。恐るべき挺対協のパワーである。日本では“韓国はゴールポストを動かす”という非難が始まった。

 しかし著者はいう。

 ――このようなことは、挺対協自体に力があるからというより、韓国国民とマスコミが挺対協の認識を共有し、支えているためである。

 2011年ソウルの日本大使館前に設置されたブロンズの少女像は、現在国内外に30体設置されている。今回の“電撃合意”に反対する挺対協は、今後さらに少女像を増やすと宣言した。

 本書は、挺対協によって「抑圧される民族の娘」として“集団記憶”された朝鮮人慰安婦問題を解きほぐしていく。

「この20年間、日本政府は謝罪し、朝鮮人慰安婦の半数近くが謝罪を受け入れた。しかしそのことは知らされないまま、謝罪しない者と許さない者の対立だけが、慰安婦問題の中心を占めてきた」

「このままだと慰安婦をめぐる争い――〈記憶の争い〉は終わらないだろう。日韓や左右の分裂と対立によって生まれる苦痛は、結局のところ、慰安婦たちが受け持つことになる。自発的であれ強制連行であれ、朝鮮の最も貧困で無力な娘として日本軍の欲求処理の手段にならざるを得なかった彼女らが〈死ぬまで〉苦痛を受けることになるのである」(本書)

 著者はいう。

 ――民族の違いや貧困という理由だけで他者を支配し、平和な日常を奪ってはならないという新たな価値観を、慰安婦問題の解決に盛り込みたい。

 以上、朴裕河『帝国の慰安婦――植民地支配と記憶の闘い』の一読を勧めるためのメモ書きである。

|

« 岩瀬達哉★ドキュメント パナソニック人事抗争史/立石泰則★パナソニック・ショック | トップページ | 発掘本・再会本100選★従軍慰安婦・続従軍慰安婦│千田夏光 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 朴裕河★帝国の慰安婦:

« 岩瀬達哉★ドキュメント パナソニック人事抗争史/立石泰則★パナソニック・ショック | トップページ | 発掘本・再会本100選★従軍慰安婦・続従軍慰安婦│千田夏光 »