
ほとんどの出版社にとってはまだ、紙の本を作って、それを電子書籍化することが「新しい挑戦」という程度だろうが、もう一歩先の段階がきっとやってくる。それもまもなく。
すでに音楽がそうなってきているように、最終的には本も「クラウド化」する時代がかならず来る。
1冊ずつ本を買わなくても、たとえばウェブ図書館のように、月額使用料を支払えば読み放題のような。
ケーブルテレビでドラマや映画を観ているひとたちは、その便利さがわかってるはず。電子雑誌や漫画などのジャンルでは、すでにそうしたサービスが日本でも始まっているし、僕もiPad用のアプリで2、3種類使っている。
そうなれば絶版、断裁という哀しい末路もなくなるし、けつきょく9割くらいの本はそうやって読めば事足りるのだ。
ごく一部の、愛玩物としてコレクションしておきたいものだけが、印刷として残っていく。
■圏外編集者 |都築 響一 |朝日出版社| ISBN: 9784255008943|2015年12月|◎=おすすめ
「編集者でいることの数少ない幸せは、出身校も経歴も肩書も年齢も収入もまったく関係ない、好奇心と体力と人間性だけが結果に結びつく、めったにない仕事ということにあるのだから」(本書)
目からウロコの体験的出版論、編集者論である。
20歳ころからフリーの編集者として40年。出版業界は長く冬の時代が続いている。若者が本を読まない。携帯代優先。出版社は営業優先。だが、けつきょくそれは編集者のせいだ、と著者。本書は、若い編集者と編集志望者に向けたもの。奥付に「著者」ではなく「語り」とある。
当方は、問1 本作りって、なにから始めればいいのでしょう。問2 自分だけの編集的視点を養うには?……といったところは全部飛ばし、問7 出版の未来はどうなると思いますか? 問8 自分のメディアをウェブで始めた理由は? を熟読した。
ところで、なんども“電子書籍元年”といわれる年があったが、いっこうに普及しなかった。上掲にあるように「ほとんどの出版社にとってはまだ、紙の本を作って、それを電子書籍化することが『新しい挑戦』という程度だろう」であった。
たしかにネットで書籍を買う場合も、ときどき「紙書籍版」より2割程度安い「電子書籍版」が表示されている程度だった。
ところがamazonが月額980円でスマホやパソコンで読み放題という「Kindle Unlimited」を2016年8月から開始した。本書は当方が目にした最初の予言だった。当時、まさかと半信半疑だった。そういえば当方の住む田舎の図書館でも“電子図書館”をすでに始めている。
出版の未来のかたちとして著者が2012年から始めているのは、有料メールマガジン『ROADSIDES weekly』。順不同に特色をあげると、①次ページをクリックする煩わしさがない。②(出版社の)検閲が入らない。③消去しない限りいつでも読める(バックナンバーも)。④出版社、書店を経由せず、すぐに読者に届く(産地直送)。⑤「索引」がなくても検索できる。⑥簡単にコピペができる。⑦字数に制限がない(当方はこれは最大の欠点だと思うが)。⑧制作に金がかからない(カネを気にせずカラー化)。ざっと読んだだけで、“未来の雑誌”らしいと思われてくる。
――メディアが特権的に情報を収集して、「流行」として発信できる時代がとっくに終わってしまっていることを、既存のメディアの人間がいちばんわかっていないのかもしれない。
いちばん大切なことに、いちばん目をつぶろうとするテレビ局。エコとか言いながら、いまだに何百万部という印刷部数を競う大新聞。意地悪の黒い塊のような週刊誌……トレンディだったはずのメディアが、いちばんトレンドから遅れてしまっている皮肉な現実。
これまで40年近く編集者として生きてきて、物理的にはいまがいちばん大変な時期ではあるけれど、編集という仕事のおもしろさから言えば、いまがいちばんスリリングな時期でもある。(「むすびにかえて――『流行』のない時代に」)
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