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2016.11.27

工藤美代子■後妻白書――幸せをさがす女たち

20161127

 

 

  略奪愛だろうが出来ちゃった婚だろうが、後妻になるのは恥ずかしいことではない。夫が社会的に高い地位にいたら、世間は苦節を共にしないでいきなり完成品を手に入れたと後妻を非難するかもしれない。

  だが、そんなことは気にしなくても良い。

  大事なのは夫が自分と巡り合う前に、すでに人生のワンラウンドを通過しているという事実だ。

どうしても共有が不可能な過去の時間の清算は、しかし、後妻も参加しなければならないのだ。特に子供がいた場合はそうなる。

  感情的にも経済的にも、その辺の問題を受け止める度量が要求される。

 

後妻白書――幸せをさがす女たち |工藤美代子|小学館|20163|ISBN: 9784093965347|

  黒川博行『後妻業』(2014)、その映画化『後妻業の女』(鶴橋康夫監督・2016)、遺産、保険金目当てに10人以上の夫たちを次々殺した筧千佐子(68)被告、死亡当日入籍した宇津井健、やしきたかじんの32歳年下の妻のスキャンダル……。

  ――2014年あたりから、後妻という言葉がやたらとマスコミを賑わすようになった。〔…〕なんとも奇妙な現象が始まったものだと思った。

  いや、それだけではない。私の直接によく知っている50代から70代の女性たちが、次々と結婚歴のある男性の妻になった。指折り数えてみると、その人数は7人くらいいる。共通点は相手の男性が持病や高齢で、もう余命が限られているところだった。(本書)

  後妻という選択をした高齢女性は、なにが動機なのか。求めたのは、カネか、セックスか、ステイタスか。

  たとえば桃子さん。相手は彼女より20歳年上の84歳だった。紳士服の店のオーナー、土地や家や株など合わせると3億円。だが脳梗塞の後遺症で左半身が不自由で、おしめをしている。しかし男としての機能は衰えていなかった。そしてわずか半年で「離婚届」を突きつけるような出来事が起こる。

  セックスライフ、性交痛の「対策と治療」最新情報、エステの裏ワザと美容への道、財産狙い、遺産相続をめぐる疑問と不安、……。なかでも読んで恐ろしかったのは、前妻への嫉妬。上掲にあるように、「どうしても共有が不可能な過去の時間の清算」ができない後妻の問題である。

  本書は『女性セブン』に連載されたエッセイ風ノンフィクション。とくに目を見張ったのは「『高齢者の発展場』とげぬき地蔵を歩く」の章。高齢者の人気スポット、巣鴨のとげぬき地蔵周辺は、テレビでインタビューしている場面をしばしば見る。高齢者の世論調査の場のようなイメージがある。

  ところが本書で描かれるのは、ちょっと違う。ここに住み、一流企業に勤める24歳の青年に、著者は案内してもらう。広場のベンチに腰掛けている60代、70代の男女。有名な出逢いのスポットだという。

 ――「真ん中のベンチの右から二人目の男の方は少しずつ移動して、黄色いジャケットの女性に近づいていますね。あっ、別々に来て座っていた男女がうなずきあって今、立ち上がりましたね」

 ジュン君が低い声で次々に実況中継してくれる。〔…〕

 

「ここでカップルが成立したとしても、それからどうするんだろう?」

 誰にともなくつぶやくと、「それはラブホに直行です」といやにきっぱりとジュン君が答えた。なんとまあ即物的なと思ったら、彼の言葉には根拠があった。

「僕の住んでいるマンションから駅に向かう道が二本あって、一本はずらっと両側にラブホが並んでいます。そこでよくお見掛けするのが、ご年配のカップルの方たちです」(本書)

  それは日常茶飯事で、手をつないで楽しそうに入口の中に消えて行くという。さらにもう一本の道の両側にピンサロが立ち並んでいるという。ピンサロの呼び込みに立っている男たちは60歳をとっくに過ぎている。ドレスを着て濃い化粧をした女性はどう見ても70歳を過ぎている。テレビでは映さない、週刊誌ならではの記事である。

 『工藤写真館の昭和』 (1990)など家族を題材にしたもの。『旅人たちのバンクーバー 』(1985)などカナダを舞台にしたもの。『香淳皇后』(2000)など皇室もの。『ラフカディオ・ハーン 漂泊の魂』(1995)など評伝もの。『快楽』(2006)など更年期もの。『もしもノンフィクション作家がお化けに出会ったら』(2011)など怪談もの。さらには自らのうつ病を克服した『うつ病放浪記』(2013)など……。

  工藤美代子、1950年生まれ。自身も後妻だという。43歳で再婚した元編集者加藤康男氏が取材に協力をしているのだろうが、昭和史、皇室から更年期、お化けまで著書はまことに多彩で旺盛な活躍ぶりである。

工藤美代子▼それにつけても今朝の骨肉

 

 

 

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