
2014年の間に私の名前が載った記事は一体いくつあっただろうか。そしてその中に真実が書かれた記事は果たしていくつあっただろうか。〔…〕
私個人に対する取材依頼は連日のように来た。「記事化を考えています」「何日までに返事をください」というメールは脅し文句のように感じられた。返事をすると都合のいいところだけを抜粋して記事に使用され、返事をしないと「返答がなかった」と報じられた。
特に毎日新聞の須田桃子記者からの取材攻勢は殺意すら感じさせるものがあった。
脅迫のようなメールが「取材」名目でやって来る。
メールの質問事項の中にリーク情報や不確定な情報をあえて盛り込み、「こんな情報も持っているのですよ、返事をしなければこのまま報じますよ」と暗に取材する相手を追い詰め、無理やりにでも何らかの返答をさせるのが彼女の取材方法だった。
■あの日 |小保方晴子|講談社|2016年1月 |ISBN: 9784062200127|○
須田桃子『捏造の科学者――STAP細胞事件』(2014年12月・文藝春秋)は、第46回(2015年) 大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した。
当方も、「科学記者として正確さと分かりやすさを心がけ、決してセンセーショナルなとらえ方はしない」として、2015年傑作ノンフィクション・ベスト10に選んだ。毎日新聞は、ノンフィクションを書ける優秀な記者がそろっており、科学環境部の須田桃子もその一人だ。
しかし気になることがあった。
「あとがき」に、こうある。
――今、この原稿を書いている2014年11現在、STAP問題はまだ終わっていない。〔…〕11月末で小保方晴子氏の検証実験への参加期間が終わる。その結果と、二度目の調査委員会の報告書が、早ければ12月中にも発表されるだろう。ごく最近これまでの認識が覆されるような驚くべき情報も幾つか耳にした。それらの中には、おそらく調査委員会の報告書に登場するものもあるだろう。(須田桃子『捏造の科学者』あとがき)
書き下ろしの単行本である。新聞記事ではない。なぜあと1と月待てなかったのか。そうすればより完成度の高いノンフィクションとなったであろう。さらに「あとがき」に、文藝春秋の二人の編集者の名前をあげ、7月の執筆打診以来、執筆中も「両氏の一章ごとの感想が大いに励みになった」とある。一章ごとに書きあがると二人の編集者に見せていたのである。
おそらく文藝春秋の大宅壮一ノンフィクション賞(前年1月1日~12月31日に公表された書籍が対象)ノミネートに間に合うよう編集者と打ち合わせを重ね、11月14日に「あとがき」を書き、奥付は12月30日発行となった。小保方晴子の検証実験という事件のクライマックスを待てなかった訳である。
もう一つ、違和感がある。
須田は自裁した笹井を「科学の醍醐味、奥深さを感じさせてくれる、魅力的な研究者の一人だった」と敬愛をこめて書く。当方のゴシップ的興味は、笹井をめぐる小保方、須田の鞘当てという構図である。
須田はSTAP細胞発見記者会見の4日前の1月24日から8月5日の笹井自裁の2週間前、7月14日までの約半年間に、約40通のメールのやり取りをしているのだ。その頻度に驚く。笹井メールの文面がいくつか載っているが、親しげに見える。ところが、小保方晴子によれば……。
――笹井先生からは、「このまま報道されては困るからできるだけ返答するようにしている。メールボックスを開くのさえ辛い。日々、須田記者の対応に追われてノイローゼがひどく他の仕事ができなくなってきた」と連絡を受けた。(小保方晴子『あの日』)
須田桃子が小保方晴子『あの日』についてどう語ったかは知られていない。
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