
アメリカの雑誌について、もっとよく知っていたら、「ホリデイ」という雑誌を出さなくてすんだかもしれないし、上からの命令でも、私は引き受けなかったかもしれない。目的ははっきりしていた。男性雑誌である。だが、まだその時期は来ていなかった。〔…〕
アメリカの雑誌は、そのほとんどが20代の青年によって創刊されている。「タイム」も「リーダーズ・ダイジェスト」も「プレイボーイ」もそうである。
雑誌が青年の冒険であることに気がついたのは、つい2、3年前である。〔…〕
そうであれば、「ホリデイ」は私にとって痛恨事である。貴重この上ない機会を無駄にしてしまった。すべては、私の力不足、自覚のなさ、意志の弱さ、ヴィジョンを持たなかったことにある。
■翻訳出版編集後記|常盤新平|幻戯書房|2016年6月|ISBN: 9784864880985|○
本書は「出版ニース」に1977年から1979年にかけて連載されたもの。実に40年近くたって死去後に書籍化された。
常盤新平(1931~2013)は、1959年28歳で早川書房に入社、1969年38歳で退社。その間の早川での編集者生活を回顧したもの。
上掲の「ホリデイ」という新雑誌の編集長を入社2年目の常盤新平が担い、創刊号のみで廃刊となる。以後トラウマとなる痛恨の経験である。早川では、都筑道夫が作家として独立し、「エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン」は小泉太郎(生島治郎)が編集し、福島正実が「SFマガジン」を編集していたという。
当時ミステリ、SFといえば、早川書房、東京創元社の2社に限られていた。版権も取りやすく、5000部売れれば十分に採算が取れたという。やがて翻訳家として独立するのだが、その頃、大手や新興の出版社が翻訳出版に参入する。
――翻訳業も虚業であると思わないわけにはいかない。しかも、どんなに頑張っても、翻訳が原作をこえることはないはずである。翻訳はそのように空しい仕事であるとも思う。(本書)
――著者が2年も3年もかかって書きあげたものをわずか2、3か月で訳してしまうのも、なんとなく気がひける。味気なく翻訳ができるのではないかという気もする。(本書)
本書に登場する当時の出版物……。メアリー・マッカーシー「グループ」、ジョン・ル・カレ「寒い国から帰ってきたスパイ」、トルーマン・カポーティ「冷血」、マリオ・プーゾ「ゴッド・ファーザー」、ゲイ・タリーズ「汝の父を敬え」、フレッド・フランドリー「やむを得ぬ事情により……」、エド・マクベイン「87分署シリーズ」などなど、発売時に購入し、愛読した。
新書版の大原寿人名義「狂乱の1920年代」(1964)こそ、常盤新平の初の著書だった。その面白さに、当方はそれ以降、フレデリック・ルイス・アレン「オンリー・イエスタデイ」、イザベル・レイトン「アスピリン・エイジ」など1920年代ものに惹かれていった。
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