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2017.02.08

東海テレビ取材班★ヤクザと憲法――「暴排条例」は何を守るのか

20170208

 

 一番困るのが、タイトルについて聞かれることだ。

 「『ヤクザと憲法』というタイトルに込められた思いは?」「暴対法、暴排条例は憲法違反だと思うか」〔…〕

 私は、「まずは、彼らの日常から何かを感じてもらうこと。その先に憲法ということについて考える機会があればなおさらうれしい」というような曖昧な返答をする。〔…〕

 すると、質問した人は、ちょっと残念そうな顔をする。おそらく、憲法がもっと前に出てきてしいのだろう。むしろそこから取材がスタートしましたと言ってほしいと思っているように感じる。 

 「この作品は、暴対法、暴排条例の違憲性を訴えるために作りました。日本国憲法第14条にのっとって、断固彼らを差別するべきではないというのが私たちの主張です」と。

 しかし、残念ながら実際はそうではない。

 つまり、憲法ありきの作品ではないということだ。

私たちは結果的に、憲法にたどり着いただけで、あらかじめ憲法問題を論じるためにヤクザの取材をスタートしてはいない。

 

 ヤクザと憲法――「暴排条例」は何を守るのか 東海テレビ取材班| 岩波書店|201610月|ISBN9784000023290|○

   東海テレビの阿武野勝彦プロデューサー、土方宏史記者による『ヤクザと憲法』は、テレビ(20053月放映)、映画(20161月上映)の半年間にわたる制作過程を綴ったもの。取材相手は大阪市指定暴力団二代目(約150人)2次団体、堺市に事務所を構える二代清勇会27人)

 ――「政治によるメディアへの介入」という話をよく耳にする。しかし、本当にメディアは介入されている純粋な「被害者」なのだろうか。自分たちで勝手に先回りしてはいないか。〔…〕

 ヤクザ組織への取材交渉はご法度。取材は警察発表に従い、だから捜査員の肩越しに撮影することになる。原稿は「ヤクザ」という単語を使用することなく、「暴力団」という表現を使う。これが、いわば暗黙の取り決めだ。この不文律は、どんどんエスカレートしていく。(本書)

 その“常識”の外へ出たのが、このドキュメンタリー。序章でのヤクザを取材したいという土方に対し、認めるまでの阿武野の葛藤のプロセスがリアルである。そして制作の前提として、ヤクザの存在を肯定しない、放送前の収録テープは事前に見せない、原則としてモザイクは入れない、という条件を清勇会、テレビ局双方に課す。

 暴対法は、1992年施行の「暴力団による不当な行為の防止等に関する法律」のこと。暴排条例(暴力団排除条例)は、2011年までに47都道府県で施行された条例。

 これにより、指定暴力団の組員は、銀行口座の開設、公共住宅への入居、宅配便の利用、ホテルの利用、車の購入、ゴルフ場の利用などができなくなった。子どもの学費、学校給食費の引き落としができないため現金持参、また幼稚園、保育園の入園拒否など、……。

  なにがなんでもこれは基本的人権の侵害ではないか。一般人の当方としても許容できない。

 著者はいう。

 ――「たとえヤクザでも、それでも人間なのだ」という視座を持てるか、これがその作品の根っこだ。

 この種のドキュメンタリー映画は1万人の観客でヒットといわれているが、既に4万人が見たという。当方はテレビも映画も見ていないので隔靴掻痒の感はあるが、「暴排条例」は何を守るのかを考えさせられた。

 

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