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2017.02.17

毛利眞人★ニッポン エロ・グロ・ナンセンス――昭和モダン歌謡の光と影

20170217

 

新東京行進曲から始めたい。

 

♪ 昨日チャンバラ 今日エロレヴュー

モダン浅草 ナンセンス

ジャズが渦まく あの脚線美

投げるイットで 日が暮れる

  まさに1930(昭和5)年のムーヴメントがすべて盛りこまれだ歌詞から、復興成った東京の溌剌とした勢いが感じられる。

 

 ニッポン エロ・グロ・ナンセンス――昭和モダン歌謡の光と影|毛利眞人 |講談社|2016年10月|ISBN:9784062586405 |○

 上掲「新東京行進曲」は西條八十作詞、中山晋平作曲、四家文子唄で、日活映画「新東京行進曲」(1930・長倉祐孝監督)の主題歌。前年、西條・中山コンビの「東京行進曲」(♪昔恋しい銀座の柳……)が大ヒットし、続いて出されたがこちらは映画も歌もヒットしなかったようだ。

 上掲は3番の歌詞だが、問題は“イット”という言葉。当方、初めて出合うが、どういう意味なのか。

  ――『モダン用語辞典』をひもとけば次のような意味である。

 アメリカの作家エリナー・グリーン女史原作、クララ・ボー主演の映画〈イット〉から来た言葉。性的魅力のこと。〔…〕

エロが肉体美も含んだ官能的とか淫蕩という意味あいであるのにたいして、“イット”はにじみ出るほんのりとしたお色気フェロモンというところだろうか(本書)

  ところが、同じ“イット”という言葉でヒットしたのは、サトウハチロー作詞、井田一郎作曲、二村定一唄の「とこイットだね(イット節)」(1931)。その2番の歌詞。

 ♪青い靴下その昔

肌色靴下もう古い

今は素足のはづむ肉

おまけに太いよ おそれるね

とこイットだね

  ――はじめ「容貌や肉体の美しさではなく、内面からにじみ出て異性を惹きつけてやまない性的魅力」だったはずの“イット”が、可能をかぎり拡大解釈されている。看板に偽りあり。ここで描かれている情緒はイットなどという生ぬるいものではなく、もはやエロそのものである。(本書)

  ――川端康成も「浅草紅団」のヒロイン弓子に「靴下をはかないのは、ストッキングレスつて、わざと素足を見せてるのよ」と言わせているように、ナマ足がカジノ・フォーリーなどレヴュー団の踊子のエロな武器から一般的に広がり、ファッション化したのが1930年という年であった。ちなみに当時のストッキングはシルク製で、縫製線が入っていた。これがナイロン製に移り変わってストッキングがシームレスとなるのは、日本では戦後を待たなければならない。(本書)

 手元の小学館英和中辞典を引いてみると、たしかに「it」には「《俗・古風》性的魅力、イット」という意味もある。ちなみに当時の流行語に、やばい、ダブる、彼氏、マークする、アイドル、歓声のイエーイなどがあり、今も使われている。

  さて、本書は、上記のような流行語がテーマではない。大正末から昭和のはじめ、関東大震災から日中戦争へと至る時代。テロよりエロ、アカより桃色、その混沌の時代の「エロ・グロ・ナンセンスとは何だったのか?」を3分半のレコードの不埒な歌詩と軽佻浮薄なメロディーから読み解こうとしたもの。

 著者曰く「道楽のきわみ」の一書。文章では伝わる面白さに限りがあるので、著者監修のCD『ねえ興奮しちゃいやよ』や『ニッポン・エロ・グロ・ナンセンス――モガ・モボ・ソングの世界』を聴きながらお楽しみいただきたい、とのこと。

 

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