本城雅人★ミッドナイト・ジャーナル
「どうして関さんは『ジャーナル』と言うんですかということです。取材精神のことを言うなら、ジャーナルではなくジャーナリズムですし、きちんと取材する人間を指しているのならジャーナリストでいいじゃないですか。ジャーナルだと〈日刊紙〉という意味になってしまいますよ」〔…〕
ジャーナリストのように、時間をかけて、相手の懐に深く入り込んで、すべてを聞き出すことも大事だけど、
俺たちには締め切りがあって、毎日の紙面も作らなければいけない。
きょうはネタがありませんと言って白紙の新聞を出すわけにはいかないからな。〈時間をかけず〉かつ〈正確に〉と相反する二つの要素を求められる」
「それでジャーナルなんですか」
はっきりと理解したわけではないが、日々の紙面作りという意味では、新聞記者は他のジャーナリストと少し違う。
「自分のことをジャーナリストなんて呼ぶのは、なんかこつぱずかしいじゃねえか。俺にはジャーナルで十分だって言ってたよ。親父がそう言ってから、俺もジャーナルと言うことにしたんだ」
警察庁広域重要指定117号事件を彷彿させる児童誘拐事件が7年前に起こり、中央新聞記者の関口豪太郎たちは「被害者女児死亡」という誤報を打つ。痛恨の過去である。そして今また児童連続誘拐事件が発生し、さいたま支局の関口はかつての事件との関連性を疑う。
本作品は、犯罪取材とあわせ新聞社内の組織、個人の確執を扱ったスリリングなミステリである。当方、一読して横山秀夫『クライマーズ・ハイ』(2003年)を想起した。御巣鷹山の日航機123便墜落事故を題材にした小説で、横山のベスト1作品であり、“新聞社小説”のゆるがないベスト1である。本城雅人『ミッドナイト・ジャーナル』は、これに匹敵するかもしれない。
以下、ストーリーには触れず、新聞がらみのことを記す。
主人公の関口は、「昔から一度裏切られると、簡単に水に流せないのが自分の欠点だ」という男である。
ベテランの二階堂という記者もいい。
本城雅人は20年の新聞記者経験があるようで……。
『トリダシ』(2015)というスポーツ新聞社を扱った連作短編も満足した。こちらは「とりあえず、ニュースをだせ」と部下にニュースを獲ってくることを要求し「トリダシ」と陰で呼ばれる鳥飼義伸というデスク。
「男が男に嫉妬するのは、金、出世、女の三つ」とか「(左遷されたとき)真っ先に味方の顔をして近寄ってきたヤツが、飛ばした張本人だ」といったフレーズで楽しましてくれる。
『紙の城』(2016)は、『ミッドナイト・ジャーナル』に次ぐ“新聞社小説”。大いに期待した。講談社の惹句によれば……。
――「新聞は昔のテレビと同じだ。〔…〕昔のテレビはチャンネルを替えるのにいちいち席を立ってテレビまで近づかなくてはならなかった。それが面倒だから興味のないニュースでもCMでもずっと見ていた。そこに新しい知識の発見があった。リモコンなんて便利なものができたせいで、テレビからはもともと興味があるものしか得られなくなった」(『紙の城』)
――新聞には国籍がある。他国との外交の内容を掴んでも、日本人の不利になるようだと大批判を展開するが、自国に有利になる場合、それが相手国に不利になるという書き方はしない。(『紙の城』)
新聞は紙とかネットとかというフォーマットの問題ではない。その新聞やサイトでしか読めない記事やコラムが集まっているかどうか。……という議論も『紙の城』に出てくる。
そういえば昔むかし、当方は田勢康弘のコラムのために日経を読み、星浩のコラムがばかばかしくて朝日ををやめたことがある。
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