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2017.04.13

大下英治★高倉健の背中――監督・降旗康男に遺した男の立ち姿

20170413

 

英二、どこまでも歩いて行く……。このラストシーンは、台本では高倉がさっと去って行く―― となっていた。

  降旗の脳裏に、ふと降旗が初めて撮影で高倉と会った美空ひばり出演の「港町十三番地」で有名な歌謡映画『青い海原』のシーンが浮かんだ。船員の高倉が、ズダ袋を肩に担いでさすらいの船員にもどって歩き去って行く……。

  降旗は、その若き高倉と81歳の高倉を重ね合わせ、高倉がバッグを肩に歩いて去るシーンに切り替えた。

 そこに、山頭火の俳句を文字で流すことにした。〔…〕

  このみちや

 いくたりゆきし

 われはけふゆく

 ――第九章『あなたへ』

 

 高倉健の背中――監督・降旗康男に遺した男の立ち姿  |大下英治|朝日新聞出版|201701|ISBN9784022514172|

  サブタイトルに降旗(ふるはた)の名があるので、本書を手に取った。当方は、監督・降旗康男、撮影・木村大作コンビの映画が大好きである。

  プロデューサー坂上順によると、東映東京撮影所売り出し中のころから、降旗は「呑舟之魚」という言葉が思い浮かぶほど大物感を漂わせていたという。当方は、深作欣二のようにあざとくなく、加藤泰のように文学性を際立たせることなく、観客としてゆったりと画面を眺めるだけの降旗作品のファンだった。

  本書は、デビュー間もない東京撮影所時代の高倉健と降旗の出会いをはさんで、21本のコンビ作品のうちから『冬の華』『駅 STATION』『居酒屋兆治』『夜叉』『あ・うん』『鉄道員』『ホタル』『あなたへ』8作の撮影エピソードを綴ったもの。

  当方は、その昔東映任侠ものでは高倉のファンだった(加齢とともに興味は鶴田浩二、池部良に移ったが)、高倉のベスト3を選ぶとすれば、『昭和残侠伝』『駅 STATION』『夜叉』である。

 『駅 STATION』1981)は、高倉と倍賞千恵子が恋仲になってしまった作品らしい。ふたりがテレビの八代亜紀「舟歌」を見る名場面もさることながら、冒頭のいしだあゆみの汽車で去っていく1シーンがすべてだった。

 『夜叉』1985)を選んだのは、木村大作による北陸の雪の中の港町という映像の美しさもあるが、田中裕子の妖艶さであった。画面に現れるだけでドキドキさせるほど色っぽかった。本書によれば、撮影中ちょうど沢田研二と恋仲であり、三日休みをくれといいアメリカへ有名歌手のライブを二人で見に行ったという(その27年後『あなたへ』の田中裕子は脂が抜けきり単なるおばさんだった)

 高倉健は、なんとなく女々しいというイメージがあって好きではない。あなたに褒められたくてという著書のタイトルも、気に入った共演者に「高倉健」の名前を彫った時計を贈る習慣があったのも、気持ち悪い。鶴田、高倉の二枚看板が嫌で自分ひとりを選んでくれたら「あなたに一生尽くします」と俊藤浩滋プロデユーサーに言ったというのも、嫌な感じがする。

 無冠の男 松方弘樹伝』鶴田派の松方弘樹が、高倉はぜんぜん男らしくなく、“男高倉健”はまったくの虚像」で「唯一、好きになれなかった先輩」だと語っていたのを思いだした。それはともかく、高倉健という俳優は、高倉健というカリスマのイメージをつくりまもるために生涯を費やしたようだ。

  さて、降旗康男監督は、脚本が出来上がる前にシノプシスだけで撮影に入ったり、演技指導もせずアドリブを受け入れながら、ストーリーをつくったり、はたまたカメラは木村大作にまかせっきり。責任だけは自分がとるという監督だったようだ。当方が最後に見たのは『少年H』(2013)。

上掲にある美空ひばりの歌「港町十三番地」の入った『青い海原』(1958・小林恒夫監督)は、降旗が初めて助監督になった映画であり、東映第2期ニューフェイスの高倉健との出会いの作品だった。ズダ袋を肩に担いで「港町十三番地」というバーに諷爽と入って来るシーンがあった。その27歳の高倉と81歳の今とをだぶらせたという。

『あなたへ』(2012)は、高倉最後の作品だが、このラストシーンについて降旗康男が語る。

 ――「この映画のクランクアップは、健さんが門司港の岸壁を歩く長回しのラストシーンでした。今になって、健さんがどこか遠くへ去ってしまうように見えると言われますが、僕自身、あれが健さんの最後のシーンになってもいいように、との思いで撮ったんです。道がもっと長かったら、まだまだ健さんをカメラで追い続けていきたかった(本書)

  著者大下英治は、降旗への長時間のインタビュー、木村大作たちスタッフへの取材、過去の雑誌記事などから、高倉、降旗コンビの映画づくりを綴ったもの。大下英治『映画三国志――小説東映』(1990)を読んだ頃をひさびさに思いだした。 

松方弘樹・伊藤彰彦無冠の男――松方弘樹伝

 

大下英治★映画三国志──小説東映

 

 

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