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2017.07.23

国谷裕子★キャスターという仕事 …………☆日本社会で何が一番変化したかと問われると、それは「雇用」だ、と。

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 番組を担当した四半世紀近くの間に、何が一番変化したのか。

 

 それは経済が最優先になり、人がコストを減らす対象とされるようになったこと。

 

 そして、一人ひとりが社会の動きに翻弄されやすく、自分が望む人生を歩めないかもしれないという不安を早くから抱き、自らの存在を弱く小さな存在と捉えるようになってしまったのではないかと思っていた。

 

 組織、社会に抗って生きることは厳しい。コンプライアンス(法令順守)、リスク管理の強化。番組でも、企業の不祥事が起きると、それらの重要さを強調してきただけに、ここで書くことにいささかの後ろめたさも感じるが、一人ひとりの個性が大切だと言いながら、組織の管理強化によって、社会全体に「不寛容な空気」が浸透していったのではないだろうか。

 

 <クローズアップ現代>がスタートしたころと比べて、テレビ報道に対しても不寛容な空気がじわじわと浸透するのをはっきりと感じていた。

 

 

★キャスターという仕事 |国谷裕子|岩波新書|20171|ISBN9784004316367 |評価=◎おすすめ

 

 <クローズアップ現代> は、1993年4月から2016年3月まで23年続いたNHKの看板番組。政治、事件、国際、文化、スポーツと「テーマに聖域は設けない」番組だ。渋谷の放送センターのみならず、地域局や海外支局も含めNHKのどの部署からでも企画を提案でき、組織の力を結集した制作側にも視聴者にも魅力ある番組だった。そのクールにして熱きキャスターが国谷裕子。

 

 ――<クローズアップ現代>のキャスターを23年間続けてきて、私はテレビの報道番組で伝えることの難しさを日々実感してきた。その難しさを語るには、これまで私が様々な局面で感じてきた、テレビ報道の持つ危うさというものを語る必要がある。

 

 その「危うさ」を整理してみると、次の三つになる。

①「事実の豊かさを、そぎ落としてしまう」という危うさ

②「視聴者に感情の共有化、一体化を促してしまう」という危うさ

③「視聴者の情緒や人々の風向きに、テレビの側が寄り添ってしまう」という危うさ

 キャスターとして視聴者にいかに伝えるかば、この三つの危うさからどう逃れうるかにかかっている。(本書)

 

 2015年暮れに、国谷は、放送時間の変更に伴い番組をリニューアルするため、キャスター契約を更新しない旨を告げられる。とっさに、ケネディ大使へのインタビュー、菅官房長官へのインタビュー、沖縄の基地番組、「出家詐欺」報道など、“降板”の理由が浮かんだという。

 

このうち菅官房長官へのインタビューは、2014年7月の「集団的自衛権 菅官房長官に問う」。「それはまったくない」「そこは当たらない」と木で鼻をくくったような再質問させない不遜な口調が絶好調だった時期(現在もそのスガ語は続いているが、加計学園問題で馬脚を現わし個人攻撃など下卑た“隠蔽”長官のイメージをまとうようになった)。しかし国谷は「憲法の解釈を変えることは、国のあり方を変える」と残り30秒を切っても問いつめた。これが様々なメディアで、首相官邸周辺の不評を買ったとの報道がなされたという。

今も昔もNHKを“国営放送”と思っている安倍官邸をNHKトップがが忖度したことは容易に想像できる。

 

 本書で引用しておきたいのは、「報道番組のなかでの公平公正とは何か」という部分。「個々のニュースや番組のなかで異なる見解を常に並列的に提示するのではなく、NHKの放送全体で多角的な意見を視聴者に伝えていく、というスタンスだった」。たとえば「基地問題をめぐつては、定時のニュースなどで政府の方針をたびたび伝えていれば、逆に<クローズアップ現代>で沖縄の人々の声を重点的に取り上げたとしても、公平公正を逸脱しているという指摘はNHK内からは聞こえてこなかった。NHKが取るべき公平公正な姿勢とはそういうものだと、長い間、私は理解し、仕事をしてきていた」。

 

しかし公平公正のあり方に対し風向きが変わり、<クローズアップ現代>で特定秘密保護法案を一度も扱われず、安全保障関連法は参院通過後に一度取り上げられただけだったという。

 

 こうして国谷は20163月に降板する。リニューアルした<クローズアップ現代+>NHK女子アナのきれいどころを日替わりで登場させたが、低迷し、わずか1年でさらなるリニューアルを余儀なくされた。

 

さて、当方が、本書でもっとも興味を持ったのは……。

――<クローズアップ現代>のキャスターを担当してきて、日本社会で何が一番変化したと感じているのかと問われると、「雇用」が一番変化している、と答えることが多かった。(本書)

 

2016年2月放送さの「広がる労働崩壊~公共サービスの担い手に何が」は、前日まで「広がる正社員ゼロ職場」という番組タイトルだったという。しかし現場の実態は、公共サービスを担う労働者は経済的に追い詰められ、労働そのものが崩壊しているのでは、という認識がスタッフに共有されていった。

 

さらに、国谷は、書く。

――非正規社員化の問題のそもそもの発端は、メディアも住民も含めた強い風、すなわち「自治体の無駄をなくせ」「非効率な業務を改革すべき」という強い風のなかで起きてきたことだ。そういう実態をきちんと踏まえた番組にすべきだと考えた。

 

――キャスターを継続し担当してきたことで生まれてきた「時間軸」からの視点によって、視点の力点、前説の力点が変化してくる。<クローズアップ現代>の歴史のなかでは、自治体の非効率性を指摘したり、経費の無駄遣いをたびたび指摘してきたことを踏まえれば、「その指摘が結果として生み出したものは何か?」という思いを忘れるわけにはいかなかった。(本書)

 

かつてNHKディレクター、プロデューサーだった川良浩和が『我々はどこへ行くのか――あるドキュメンタリストからのメッセージ』(2006)『闘うドキュメンタリー ――テレビが再び輝くために』(2009)の2冊で「NHK特集」「NHKスペシャル」1986年以降の150本のうち100本を記録している。

 

これらの番組から<クローズアップ現代>は、ほぼ10年遅れでスタートし、ずっと重なっている。国谷の23年を小さな新書に閉じ込めるのはなんとももったいない。国谷裕子のクローズアップ“現代史”として刊行できないか。

 

とりわけ、<クローズアップ現代>は、バブル崩壊後から竹中平蔵、内橋克人という二人のゲストが多く登場したことに本書は触れている。竹中の構造改革の悲惨な結果と内橋のthink small firstという主張。小泉内閣から安倍内閣まで、何度も取り上げられてきた日本経済、とりわけ雇用問題について、せめて1冊の本にならないかと思う。

 

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