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2017.07.18

澤 康臣★グローバル・ジャーナリズム――国際スクープの舞台裏  ☆ノンフィクションが書けなくなる理由

20170718

 

 この壁は2004年、さらに厳しいものになった。

 

  刑事訴訟法に新たな条文が付け加えられ、検察が弁護人に開示した検察側証拠を裁判以外の目的に使うことが禁じられた。だから記者に提供することも禁止である。

 

  冤罪の訴えを調べたり、裁判を詳しく取材したりする記者は、弁護人と協力関係を築き、裁判資料のコピーをもらって読み込むことがよくある。それが犯罪になってしまうのだ…〕 

 

 記者どころか、被告人本人が裁判所の外で冤罪を訴えるため、こうした資料をビラやパンフレット、ウェブサイトに掲載するのも「目的外使用」に当たるため禁止された。

 

  どこの国でも冤罪の訴えは、検察が出す証拠を多くの市民に見せ、これらはおかしいと知らせるところから始まる。そうした活動を犯罪として取り締まる法律ができたのが21世紀の日本という国である。

 

 

★グローバル・ジャーナリズム――国際スクープの舞台裏|澤 康臣|岩波新書|2017年3月|ISBN:9784004316534 |○

 

「パナマ文書」を契機として国際調査報道が注目されている。人と情報が国境を越え、国際化が加速されている。他国のジャーナリストのやり方を学ぼうと、本書はその最前線をリポートしたもの。

 

「パナマ文書」とは、パナマの法律事務所から流出し公表された機密の金融取引文書のこと。76370人以上のジャーナリストの「国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)」が、内部文書1150万点を入手し、検証し、2016年に結果を公表したもの。国家元首・政治家・企業幹部などと、オフショア・タックスヘイブン(非居住者向け租税回避地)にある海外資産との関係を明るみに出した。

 

 インターネットで展開する韓国の映像系調査報道メディアの「ニュース打破(タパ)」もすごい。2012年の大統領選で朴槿恵が当選した際、情報機関の国家情報院がインターネットで朴候補の支援工作を組織的に行っていたことを暴いた。

 

 また本書では書かれていないが、2016年、韓国の衛星放送JTBCで自らがアンカーマンを務める孫石熙はニュース番組「JTBCニュースルーム」で、朴槿恵大統領の国政機密漏洩事件、いわゆる崔順実(チェ・スンシル)ゲート事件をスクープ。これを契機に、朴槿恵大統領は弾劾訴追、罷免される至った。

 

 発熱しやすい韓国の国民性と、言に動が伴わないわが国の国民性との違いはあるが、“もり+かけ”安倍隠蔽問題で首相を追い込めない日本メディアの調査報道の劣化を思わざるを得ない。

 

 本書で当方の最大の関心事は、「第5章 そして日本はー」である。調査報道を阻む“壁”。その一つは上掲にあるように刑事訴訟法であり、他の一つは個人情報保護法である。いくつか引用する。

 

 ――民事裁判の場合、コピーは入手できず閲覧が許されるだけである。記録自体、裁判が終わって5年経てば判決文以外は廃棄ざれ、この世から消える。刑事裁判はもっと深刻で、法律では誰でも請求すれば記録を「閲覧させなければならない」と明記されているのに、実際には関係者の名誉や平穏を理由にした例外規定を挙げて難色を示され、閲覧できても固有名詞の大半が黒塗りされるということが多々ある。記者ら市民が裁判や捜査を検証することを著しく妨げている。(本書)

 

 当方の周辺でも、個人情報なので教えられません、という“逃げ口上”で役所の不作為に泣かされるケースが多発している。公共的利益とは関係なく、名前や住所のような要素が含まれる情報を他人に提供することは“問題行動”であるとされてしまっている。また“プライバシー”と同様に誤った使い方がされているのに“匿名性”がある。

 

 ――固有名詞を欠いた記録は検証や調査のための用をなさず価値の大半を失う。実際、匿名性の増加により日本の報道アーカイブは無意味化が進行し、調査報道の参考資料として使うことが困難になっている。(本書)

 

 ジャーナリスト江川紹子の体験談が紹介されている。2016年、裁判員裁判を経て初めて死刑が執行された歴史的事件の記録の閲覧を横浜地検に申請した。しかし閲覧できたのは記録のごく一部、公判速記録と判決文だけだったという。多くの固有名詞が黒塗りされ、被告人以外の関係者の人名は、亡くなった被害者も含めてほぼ黒塗りで、読めなくなっていた。「日本司法の歴史に残る出来事に誰が関わったか、つまり誰の出来事だったのか、その情報が抹消されている」。

 

 ――黒塗り措置は関係者の「迷惑防止」という面を慮ってのことではあろう。だが刑事裁判は権力行使に関わる重大な公共事項でもある。裁判の公開やその記録の公開は当事者にメリットがあるから定めているのではない。手続きを大衆的な関心と検証のもとに置いてこそ権力の間違いが発見されるからだ。(本書)

 

 ノンフィクションの取材に金や時間がかかる割に作品が売れない。発表誌が廃刊されていく。ノンフィクションは衰退の一途だ。

だが本書を読んで個人情報の過剰な保護、また冤罪を訴えたり刑事手続きや裁判を検証したりすることが犯罪となってしまう刑事訴訟法「目的外使用の禁止」条項などによって、ノンフィクションを書くことできなくなっていく現状が分かった。

 

 著者澤康臣は、1966年生まれ。パナマ文書解明に取り組んだ共同通信特別報道室記者。

 

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