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発掘本・再会本100選★国盗り物語 /司馬遼太郎     …………権ははかりごと、謀もはかりごと、術もはかりごと、数もはかりごと、この四つの文字ほど庄九郎〔斎藤道三〕の好きな文字はない。

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 要するにこの物語は、かいこがまゆをつくってやがて蛾になってゆくように庄九郎が斎藤道三になってゆく物語だが、斎藤道三一代では国盗りという大仕事はおわらない。

 道三の主題と方法は、ふたりの「弟子」にひきつがれる。弟子というのは語弊があるかもしれないがどこからみてもあきらかに弟子だから、あえて弟子という。

 道三が、娘をもつ。その娘の婿になるのが織田信長である。信長と道三の交情というのは濃やかなもので、道三がもっている新時代へのあこがれ、独創性、権謀術数、経済政策、戦争の仕方など世を覆して新しい世をつくってゆくすべてのものを、信長なりに吸収した。

 さらに、道三には、妻に甥がいる。これが道三に私淑し、相弟子の信長とおなじようなものを吸収した。しかし吸収の仕方がちがっていた。

 信長は道三のもっている先例を無視した独創性を学んだが、

このいま一人の弟子は、道三のもつ古典的教養にあこがれ、その色あいのなかで「道三学」を身につけた。この弟子が、明智光秀である。

 歴史は、劇的であるといっていい。なぜならば、この相弟子がのちに主従となり、さらにののちには本能寺で相搏つことになるのである。

――国盗り物語斎藤道三「雑話」

★国盗り物語 /司馬遼太郎 /1965年11月1966年7月/新潮社


 当方も「雑話」を書きたい。コロナウイルス禍によって、近隣の書店は休業が続き、周辺の図書館は休館中である。当方、断捨離、終活でほとんど蔵書がない。よってネットの書店やオークションを使い、ここ2か月で20冊ほど手に入れたが、半数はかつて廃棄した本の買戻しで、そのなかにこれ。

 大河ドラマの『麒麟がくる』は明智光秀がどういう人物に描かれるか興味があるが、これも中断されるらしい。『国盗り物語』は半世紀ぶりの再読である。もやもやした日々にはピカレスク・ロマンがふさわしい。

 ――庄九郎にとってなにが面白いといっても権謀術数ほどおもしろいものはない。権ははかりごと、謀もはかりごと、術もはかりごと、数もはかりごと、この四つの文字ほど庄九郎の好きな文字はない。(本書)

 本書は、えごま油に始まって天王山で終わる。すなわち大山崎である。この地でえごま油の離宮八幡宮、天王山山腹にある宝積寺などを吟行し、「待庵」の原寸模型のある大山崎歴史資料館の建物で、播磨住人と摂津住人に分かれ句会を行ったことがある。賞品にえごまドレッシング。その1句。

 ――桂宇治木津の三川四温かな   

 斎藤道三編は、歴史的事実が不明なため、"美濃の蝮"は縦横にかつ痛快に活躍する。油問屋「奈良屋」の女主人お万阿や土岐頼芸の元愛妾深芳野との濡れ場も描かれる。『竜馬がゆく』『関ヶ原』(同時平行して執筆)とともに講談調"時代小説"から司馬史観の"歴史小説"への移行期の傑作である。

 織田信長編は、信長と光秀がダブル主演。ビジネスマン小説としてかつて愛読した。言葉少なく短気で、天才的独裁者の信長という上司、豊かな才能を認めるも抜け目のない気配りなど要領のよさで出世を続ける同僚の秀吉。知力、武力に卓越していると自認する明智光秀は、信長とはウマの合わないし、秀吉をうさん臭くみている。サラリーマンの読者は、当時の当方もだが、勘気をこうむる光秀に身につまされる思いで、同情し、共感する。

 司馬遼太郎40代前半の作品である。おそらく兵役生活や新聞記者というサラリーマン生活のにがい経験が、この光秀や『関ヶ原』の三成に反映されているのではないか。

 だが当方にとってサラリーマン生活は遠い昔の話、高齢になったいま興味も異なる。突然だが……。二人に一人はがんで死ぬ時代である。当方ががんを宣告されるとしたら、光秀の謀叛で信長が本能寺で発した言葉を用意しておきたい。

「是非に及ばず

 

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