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元木昌彦★野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想

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 本田〔靖春〕さんが万年筆を手に縛りつけ、一字一字、石に刻むようにして書き遺した連載の最後の言葉は、講談社の編集者たちへの感謝であった。

 

「それがなかったら、私は疑いもなく尾羽打ち枯らしたキリギリスになって、いまごろホームレスにでも転落して、野垂れ死にしていたであろう。これは誇張でも何でもない」

 2004124日、享年71

 

 この本のタイトルを考えているとき、この「野垂れ死に」という言葉が卒然と浮かんだ。

私は本田さんの齢を超え、おめおめと馬齢を重ねているが、私のほうこそ、どこで野垂れ死んでいてもおかしくはなかった。

 

 私の周りには、刀折れ矢尽き、野垂れ死に同然に亡くなっていった同僚、仲間、物書きたちが何人もいる。

 無駄に永らえた人間がやるべきことは、自分が生きてきた時代の証言者になり、後の世代に“何か”を伝えていくことだろう

 

と考え、この本を書き上げた。

★野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想/元木昌彦/20204/現代書館  


 元木昌彦(1945~)は、1970年に講談社に入社、月刊『現代』編集部に在籍した。その翌年読売新聞を退社しフリーになった上掲の本田靖春(1933~2004)と知り合った。ふたりが本格的に組んだのは『「戦後」美空ひばりとその時代』(1987)だった。元木は遺品として貰った万年筆をいまも大切に使っているという(後藤正治『拗ね者たらん 本田靖春 人と作品』)。     

 同書には講談社編集者たちによる本田靖春へのリスペクトと愛惜の思いが語られている。

 元木昌彦は、週刊誌華やかりし時代に「週刊現代」編集長を務めた。「ヘア・ヌード」という言葉をつくった。オウム真理教事件でスクープを放った。東京地検の捜査も受けた。毎晩酒を呑み深夜に帰宅し、翌朝胸が締め付けられるような状態を、『昭和残侠伝』のDVDを観て、自らを鼓舞する。うつ病だと診断される。

 本書で当方が興味を持ったのは、2点。一つは元木の左遷、もう一つは上掲にある野垂れ死に同様の“戦友“たちのこと。

 1992年から1997年までの5年半という長い間「週刊現代」編集長を務めたのち、50代半ばで部下が一人もいないポストに左遷される。比ぶべくもないが、当方もある大型プロジェクトを担当して5年、その完成直前に左遷された経験がある。2年後に“復活”したものの、その屈辱の思いはいまだに払拭できない。

 元木は、左遷された職場でひとり、のちに「とてもいい発想だったけど、時代が早すぎたね」と言われたオンラインマガジン『web現代』を立ち上げる。

 この『web現代』に連載した第一線で活躍するジャーナリスト、ノンフィクション作家、編集者たちのインタビュー記事を『編集者の学校』(2001)として刊行する。当方も愛読した。熟読した。記憶に残る一書である。

 元木は、さらにその後子会社に左遷され、定年を迎える。だが『編集者の学校』を刊行したことで、定年後の人生が開ける。いくつかの大学から招聘される。

 ――個人事務所をつくった。肩書は編集者。

 名刺の裏には、私の略歴が小さな活字で印字されている。見る人にとっては見にくくて迷惑だろうが、私にすると、オレのこれまでの人生は名刺半分にしかならないのだと感慨深かった。(本書)

 野垂れ死に同様の“戦友“たちのことについては、元木は機会あるごとに「あの時代を一緒に駆け抜けて来た仲間のことを書き残すことは、後に残った者の義務である」と考え、書いている。たとえば……。

 ――年を取って働けなくなるとあっという間に下流老人になってしまう。大きな賞である大宅壮一ノンフィクション賞をとったノンフィクション・ライターでも苦しい生活をしている人が多くて、地方にいて東京に出てくる電車賃がないという人もいます。病気をして奥さんが救急車を呼んだけど「カネがないから入院しない」と救急車を返してしまった先輩ライターもいる。(『現代の“見えざる手”――19の闇』2017)

 本書では『週刊現代』で組み、小沢一郎を追い、多くのスクープを放った松田賢弥(1954~)について書いている。松田は、のちに妻子と別れ、脳梗塞に倒れ、生活保護で病院の支払いをすれば手元にはほとんど残らない日々に。フリーのライターのやりきれない末路を描いている。

 著者はネット上で、週刊誌時評を続けている。その巻末付録でセクシーグラビアを紹介するのもいいが、できればもっと多くのライター、編集者の“挽歌”を記録に残してほしい。

元木昌彦★野垂れ死に

 

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