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2020.07.10

菱田信也★芝居小屋戦記 神戸三宮シアター・エートー の奇跡と軌跡    …………いつの時代も新しい文化は路地から生まれる

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 アクティブ、能動的に、とはつまり、劇場側が主催者となり、オリジナルのイベントを積極的にプロデュース(制作)し、これを興行として売っていくことで収益を得るというビジネスになります。
 まず第一に、これが本劇場の大きな特色と位置付けました。
アクティブ型業務の自主プロデュースを打っていくのは大きなリスクを伴います。


 貸館ビジネスをしているだけであれば、借り手から貸館料、設備費をいただくだけの話で、もしもお客様が入らなくても劇場側に痛みはない。


 しかしシンプルに、「それで楽しいか」という、出てこなくていい問いが出てきてしまう。


 残念ながら、大下支配人を筆頭に、私、村上……、同じような考え方をする人間が集まってしまったのです。

★芝居小屋戦記 神戸三宮シアター・エートーの奇跡と軌跡 /菱田信也 /2020.04 /苦楽堂 


 神戸の中心地JR三ノ宮駅から徒歩3分の場所に、2017年4月オープンした小劇場「神戸三宮シアター・エートー」がある。その創成期の記録である。ミニシアターの作り方、そのハードとソフト、スポンサーとスタッフの考え方が、細部にわたり記述されている。その奮戦ぶりは、ここでは紹介しない。ぜひ本書で……、

 スポンサーを記憶にとどめておこう。

 ――劇場プロジェクトを推進しているのは大下順子ですが、運営母体は「スミレ会グループ」。神戸市内に北須磨病院、名谷病院、伊川谷病院と2つのクリニック、ほか県外に5つの病院。全国各地に多くの介護老人ホーム、特別養護老人ホーム、そして福祉専門学校に幼稚園まで擁する、総従業員数3000名弱、年商数百億円の巨大組織。大下順子はこのスミレ会グループのトップ、前田章理事長の妻。 (本書)

 つづいてシアター・エートーの名前の由来も記憶にとどめておこう。なお、支配人の大下順子、前田順子、大志田詢子は同一人物。

 ――神戸市須磨区の前田順子さん。大阪芸術大でバレエを学び、同大の非常勤講師も務めた。〔…〕
劇場の名称「神戸三宮シアター・エートー」は、同大のキャンパスにあるプレハブ「A棟」がモチーフ。かつては関西の代表的な劇団「劇団☆新感線」の拠点となるなど多くの演劇人らを輩出した。学生時代と同様、「お金にはならないが、演劇に情熱を燃やせる場所に」と名付けた。 (本書)

 本書に収録されている宰井琢騰(さいたくま)氏ならびに小泉克明氏との対談が興味深い。両氏とも神戸で不動産業を営みながら多彩な文化事業の仕掛けをやっておられる方のようだ。

菱田 言葉は悪いんですけど、子供の頃は三宮あたりを「暗黒街」やと思ってたんですよ。北野坂から下はまったく空間が違う。生田新道ビルのあたりなんか、まさに大人のエリアって感じだった。大人の男にならなきやそこには行けないよ、子供はダメだよ――みたいな不文律。
宰井「俺もいつかはあそこに行くんだ」っていう感覚ですね。
菱田 実を言いますと、ぼく、二十歳くらいの時にイキってマンダリンパレスに行って飲めない酒を飲んでたら、宰井さんのお父さんらしさ方に、そんなこと言われた記憶があるんですよ。 (本書)

 以下、95年の阪神淡路大震災、「がんばろう神戸」って掛け声があって、「そもそも、頑張るの嫌なんですよ、三宮の人間」といった話になり、震災以降神戸が変質した話になるのだが、それはともかく……。

 たしかに1960年前後の生田新道辺りへ行くのは、若者にとってちょっと“冒険”だった。組員が風を切って歩いていたし。知人の某は、ハマガワに勤めていたが、夜にヤマガワへ飲みにゆくときは、ナイフを忍ばせていた。キャバレー新世界は、市内のどこからでもタクシーで乗り付ければ、料金を支払ってくれた。むかしむかしを思いだした。

小泉 変なもんは大概、路地にしかないですよ(笑)。〔…〕
菱田 だから、うちのお客さんがやたら道に迷って迷宮にはまり込むというのは、全然正解なんですね(笑)。
小泉 そうそう、そうです。今はもう、路地にしか面白いものは残ってないんです、ぴかぴかの道んところは、おカネに換わるから建て替えちゃう。〔…〕
逆に言えば(路地は)「面白くするしかない」。正直、経済原則でいうとうまくいかないから、「それやったらなんか面白いことしよう!」みたいになる(笑)。
菱田 そうかあ、そういうことか。ここは「なるべくして、劇場になった」わけだ。 (本書)

 いつの時代も新しい文化は路地から生まれる。醒めやすく移り気な市民も多い街で、集客に知恵が求められるコロナ禍の後の時代に、この神戸三宮シアター・エートーが長く持続されることを、祈るや、切。

 

 

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