吉田篤弘★流星シネマ …………200年前に鯨が川をのぼってきたという伝説がある町で暮らす人々のあたたかな物語
メアリー・ポピンズは映画化されたときに、名前から「ア」の一字が抜けて、「メリー・ポピンズ」になった。
われわれがまだ中学生のとき、メアリーにかぶれたミユキさんの格好を見て、アルフレッドが面白がった。同時に彼は、Maryが「メアリー」になったり「メリー」になったりする日本語の表記を不審がっていた。原典の翻訳本は「メアリー」だったが、いまや、「ア」が抜けた映画の「メリー」の方が名を馳せている。〔…〕
僕としては、図書室の棚に並んでいた「メアリ」に思い入れがあり、省略されたような「ア」の欠落は、メアリーがコートのポケットから手袋を取り出したときに、うっかり「ア」の一字を取り落としてしまったような残念さがあった。
★流星シネマ /吉田篤弘 /2020.05 /角川春樹事務所
――この世界はいつでも冬に向かっている。
僕、太郎はその町で、〈流星新聞〉を発行するアルフレッドの手伝いをしている。ゴー君、ミユキさん、バジ君、椋本さん、カナさん――。200年前に鯨が川を登ってきたという伝説がある町で暮らす人々のあたたかな物語。以下、本書から。
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「カナさんが僕に云った、シを書きなさい、という言葉の意味なんですが、あの『シ』は、死のシなのでしょうか、それとも、詩のシなんでしょうか」〔…〕
「同じ響きを持った言葉は、どこか底の方でつながっているんじゃない? わたしはそう思っています。詩はいつでも、その背中に死を背負ってる」
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人間という動物は、その姿かたちや基本的な能力がいったん完成されたあと、後天的に付け加えられた能力がある。その最たるものが「忘却」ではないか。
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――矛盾と仲良くならないと人生はつまらない。
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