« 吉田篤弘★流星シネマ    …………200年前に鯨が川をのぼってきたという伝説がある町で暮らす人々のあたたかな物語 | トップページ | 北村薫★ユーカリの木の蔭で      …………ゴシップあまた、本にまつわる“小ネタ”の備忘録 »

2020.07.07

林真理子★綴る女 評伝・宮尾登美子        …………「あなたはあんなに宮尾さんに可愛がってもらったのに、悪口を書いているって古い編集者たちが怒っているって聞いたわよ」

Photo_20200707084301


 そんなことよりも、瀬戸内〔寂聴〕が宮尾を受け容れられないと思ったのは、作品についてのこんなひと言であった。

「瀬戸内さんが『源氏』を書いてしまったから、私は『平家』にするわって。
瀬戸内さんが『源氏』書くためにマンション買ったから、私は家を一軒買うわって」


どうやら宮尾は、4歳年上の瀬戸内をライバル視していたようだ。どちらも文壇のスターである。

★綴る女 評伝・宮尾登美子 /林真理子 /2020.02 /中央公論新社


 当方、宮尾の作品を読んだのは唯一『仁淀川』(2000)である。その頃タイトルに「河」とか「川」がつく本を集中して読んでいた。たしか高知の郊外の仁淀川のほとりに住み、農家の嫁として暮らしながら文学の夢を捨てられないという自伝的な作品だった。仁淀川そのものの描写に魅力的なフレーズがなかったためか、当方のブログやツイッターに記録を残していない。

 当方にとっての宮尾は五社英雄監督の映画『鬼龍院花子の生涯』(1982)、『陽暉楼』(1983)、『櫂』(1985)によってである。五社英雄のあざとい演出が嫌いではなかった。そして本書にも引用されている『噂の眞相』のゴシップも記憶にある。

「大御所女流作家宮尾登美子の盛大な誕生会が開催。朝日の中江〔利忠社長〕や文春の田中〔健五社長〕に混じり小泉純一郎出席」(『噂の眞相』1998年6月号)

 宮尾登美子のイメージは、女優の奈良岡朋子に似て、かつ「足袋つぐやノラともならず教師妻」の俳人杉田久女のような人であった。

 ――「私はいつか、先生の伝記を書きたいんです」
「あら、いいわよ」
即座におっしゃった。
「その時は何でも話してあげる」
と約束してくださったものだ。(本書)

しかし宮尾の生前には、直接の取材も実現しなかった。だからこそここまで書けたのだろう。

 ――「マリコさん、あなたの連載の『綴る女』、読んでいるわよ」
と言われて、すっかり恐縮してしまった。
「でも、あなたはあんなに宮尾さんに可愛がってもらったのに、悪口を書いているって古い編集者たちが怒っているって聞いたわよ」
歯に衣着せぬ、といった、いつもの瀬戸内の口調である。(本書)

 本書を読んだ後の宮尾のイメージを追加するとすれば、“かっぺ”である。成り上がった“かっぺ”である。それは作者の林真理子に重なるのだ。

 謎が残ったのは、――。最初の夫、前田薫と離婚し、1964年、高知新聞社学芸部記者の宮尾雅夫と再婚する。一世を風靡したベストセラー作家の華やかな交流歴に比して夫として宮尾雅夫は表舞台にいっさい登場しない。当方の最も知りたかったのは、宮尾の作品執筆にどのようにかかわっていたか、その“秘密”は明かされていないことだ。

 

 Amazon林真理子★綴る女 評伝・宮尾登美子

 

 

 

 

 

 

 

|

« 吉田篤弘★流星シネマ    …………200年前に鯨が川をのぼってきたという伝説がある町で暮らす人々のあたたかな物語 | トップページ | 北村薫★ユーカリの木の蔭で      …………ゴシップあまた、本にまつわる“小ネタ”の備忘録 »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。