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2020.08.21

壇 乃歩也★北斎になりすました女 葛飾応為伝      …………応為の春画⑥ ちょっ、お栄ちゃん。昼間からそんな、ふしだらな。(松阪『北斎のむすめ。』)

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 応為はふと気がついた。『北斎漫画』は呪いなのだ。この本には親父どのの全てがある。これに頼れば食いっぱぐれることはない。

 自分は絵師として北斎の陰で生きてきた。そして今は北斎になりすましている。これでいいのだろうか。〔…〕

自分の中に描きたいものはないのか? ある。それは光と影だ。

〔…〕親父どののように自分自身の絵を描くべきだ。呪いは解かなくてはならない。

 そんなとき、応為に仕事の依頼が入った。時は安政、江戸に黒船が来航し、東海道から江戸にかけて大地震に見舞われた激動の時代である。
それは応為の手彩色の艶本を贔屓にしていた裕福な商人からの注文だった。〔…〕

 応為への注文はそんな吉原の賑わいを床の間の絵にしてほしい、というものだった。応為には前から描いてみたいアイデアがあった。吉原の夜を光と闇を駆使して描いてみたい。

★北斎になりすました女 葛飾応為伝 /壇 乃歩也 /2020.03 /講談社


 葛飾北斎が“線”の絵師、渓斎英泉が“色”の絵師だとしたら、葛飾応為は“光と影”の絵師である。

本書で初めて見た。応為の「吉原格子先之図」だ。吉原の浮世絵は多い。北斎の「吉原楼中図」、歌麿「吉原の花」、「新吉原仮宅両国之図」など、夜を描いても影がない。昼間のように明るい。だが応為に絵は光と影で吉原を描いている。

「吉原格子先之図」太田記念美術館蔵。

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 ――描かれているのは江戸の遊郭街吉原の張見世。店の中の花魁たちは格子の向うから眺める男たちからの誘いを待っている。画面全体に広がる光と闇のコントラストが柔らかなグラデーションで繋がり合う。そこに浮かび上がる男と女の猥雑な人関係、格子を隔てて向かい合う客と花魁たち、これから起きるたった一夜の秘めやかなゲーム、深い影、あるいは強い光によって覆い隠された遊女や客たちの心模様。

 濃密で奥行きの深い夜が艶めかしく、情感たっぷりに活写されている。 (本書)

 ――さらに画面の中央、格子を隔てて向かい合う男女がいる。うつむぎかげんに座る花魁の顔は背にした組の光によって真っ黒シルエットになっている。
 格子の手前には提灯を手にした男がいる。正体を知られないように頭巾を被る男の表情は行灯の光が強いせいか、のっべらぼうみたいに真っ白にかき消されている。しかし、男が持つ提灯の位置からしても、女のかんざしや格子の光の当たり方からしても、花魁の姿は不自然なまでに真っ黒に描かれている。
 まるで、何かを隠そうとしているかのように……。 (本書)

 

 小説がアニメになったり、ドラマになったり、メディアミックスは常識だが、本書も日本BS放送(BS11)で2017年12月に放送された「北斎ミステリー~幕末美術秘話 もう一人の北斎を追え~ 」を元にしたノンフィクションである。

 北斎だけでなく、その娘応為が大活躍である。
松坂『北斎のむすめ。』(全3巻、2017~18、芳文社)は、4コマまんが。その帯のコピーには、「おやじ、代作ばかりさせんな!」とある。

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 さらには、スマートフォン向けRPGアクションロールプレイングゲーム『Fate/Grand Order』(フェイト・グランドオーダー)にも応為は北斎とセットで登場する。

 ちなみにどんな人物かというと、華やかな着物と花を思わせる髪飾りが特徴な女流作家。隣に浮いているのは面妖蛸の“とと様”が「葛飾北斎」。二人一組のサーヴァント。
 身の丈程の巨大な筆を振るって戦う他、小筆を投擲武器として扱ったり、絵を具現化させる攻撃を行う。また、面妖蛸の“とと様”も墨を吐いて支援する。おおっ!

 

 

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