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2020.08.24

久保田一洋★北斎娘・応為栄女集             …………応為の春画⑦ 其の品行は、頗(すこぶる)正し。情夫などありたることを聞かざるなり。(飯島虚心『葛飾北斎伝』)

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「吉原格子先之図」が安政2年10月の大地震後の作品とすれば、それは加瀬家で描かれたのかもしれない。

 応為は加瀬家で義理の妹とは仲睦まじからず、しかしあれだけの絵を描くのであるから、「妾は、筆一枝あらば、衣食を得ること難からず」と豪語したのも納得する。

「吉原格子先之図」を最後に、その提灯に隠し落款で自分の名を書き入れ、自らその絵に融け込むかのように


歴史の闇のなかに姿を消してしまったと言えば、奇女の綺麗な最期になる。


 ――久保田一洋「応為栄女の諸伝」

★北斎娘・応為栄女集  /久保田一洋・編著 /2015.04 /藝華書院


 2013年、大英博物館で「春画――日本美術の性とたのしみ」が開催された。16歳未満の入場は保護者の同伴を必要とする異例の措置である。同館の所蔵品のほか、日本、英国、オランダ、デンマーク、米国から300点以上が集められた。

 わが国では2015年に永青文庫で初の大規模な「SHUNGA春画展」が開催された。先の大英博物館の展示品を含め133点が展示された。

 これに合わせ多くの豪華な画集やムック本が出版された。“解禁”といっていい。インターネットにも黒塗りやぼかしの消えた画像が大量に出現した。
 さらに、漫画、アニメ、小説、映画、ドラマ、ドキユメンタリーで、北斎など浮世絵師たちが描かれた。そこで特に注目を集めたのは北斎の娘応為である。

 2017年、大英博物館での「北斎 -――大波の彼方へ」展でのシンポジウムでは、いつか「応為展」ができないものかと誰かが提案すると、会場が湧いたという。

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 北斎、応為を知るための基礎資料は、
『葛飾北斎伝』 著者飯島虚心 校注者鈴木重三1999.08岩波書店 (原本:明治26=1893年 蓬枢閣)
 と本書である。以下、両書から引用する。

1849(嘉永2)年 北斎、肉筆画「富士越龍」制作後、臥し(「老病なり、医すべからず」)、死去(数え90歳)
辞世の句 悲と魂でゆくきさんじや夏の原(人魂で行く気散じや夏野原)

以下、念のため上掲を説明すると……。

 ――北斎翁の死するや、阿栄悲嘆座に安せず。
これより居所を定めずして門人或は親戚の家に流寓し、
後親戚加瀬氏の家に居りしが、一日出てゝ行く所を知らず。

1855(安政2)年 安政の大地震。この後、応為「吉原格子先之図」を制作。

 ――常に曰く、妾は、筆一枝あらば、衣食を得ること難からず。何ぞ区々たる家計を事とせんやと。

「吉原格子先之図」に落款はないが、描かれた3つの提灯に「應」「為」「栄」の文字、隠し落款がある。

 ――白井多知女〔弟・加瀬崎十郎の娘〕の遺書には、安政四年〔1857〕の夏、
東海道戸塚宿の人、文蔵といへる者阿栄を招き画を請ふ。
阿栄筆を懐にし、出て行きしが、夫より知れずなりしと。

 

 ――現存する応為の作品は極めて少ないが、北斎とされる作品は余りに多い。応為と言っても知らないが、北斎といえば誰もが知っている。北斎の名で残された作品は多く、肉筆画だけでも優に一千点は越える。

応為は北斎の娘であるから、北斎の作品にこそ応為の手が入る、筆力の優れた部分は北斎ではなく、実は応為の手になるのではなかったか。これらを区分し、北斎の北斎たる部分と、応為の応為たる部分を区別し考えてゆくことは、今後研究の一課題になろう。 (本書「応為栄女の諸伝」久保田一洋)

 応為は南沢等明と結婚し、離婚するが、小説、漫画、ドラマに登場する応為の“愛人”は、渓斎英泉、滝沢馬琴、式亭三馬、歌川国直など“惚れた男も数知れず”だが、これらの応為の言動の原本となった飯島虚心『葛飾北斎伝』を引用し、“オチ”をつけよう。

 ――しかして其の品行は、頗(すこぶる)正し。情夫などありたることを聞かざるなり。常に翁の傍にありて、孝養怠りなし。感賞すべきことなり。

 

 

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