« 吉田篤弘★奇妙な星のおかしな街で              …………外へ出ること。ゆっくり読むこと。そして、一人きりで読むこと。 | トップページ | 左右社編集部★仕事本 わたしたちの緊急事態日記            …………コロナ禍を避けた2020年4月の単調な日々を覚えていますか »

2020.09.28

出口治明★還暦からの底力――歴史・人・旅に学ぶ生き方         …………明るく単純な人生をおくるための教科書

202005_20200928070901


 フルタイムで働く人の1年間の労働時間は約2000時間。これに対して1年間は8760時間。人の生活のなかで労働時間は2割強に過ぎません。物事のなかで2割強のウエイトなど、極論すればどうでもいいことです。〔…〕


 ご飯を食べられて横になれる寝床があって、子供を安心して育てられ、好きなところに旅ができて上司の悪口を目いっぱいいえれば、あまり不満は生じないのです。

大事なことは時間にして2割強の仕事より、8割近くの時間を過ごす仕事以外の部分です。


 逆説的ですが、この見極めがつくと、思い切って仕事ができるようになります。〔…〕仕事ができない人の多くは、こういったワーク・ライフ・バランスの配分を間違えているのです。

★還暦からの底力――歴史・人・旅に学ぶ生き方 /出口治明 /2020.05 /講談社


 英語が堪能で、博士号をもち、大学の管理職経験あり、との3条件で公募された立命館アジア太平洋大学(APU)学長。どれもあてはまらないのに104名の中から選ばれた“古希学長”が著者。

 その出口治明が、NHK-BSの人生最後の覚悟でメッセージを贈る「最後の講義」に登場した。学生たちを相手のリモート講義を、当方もたまたま“傍聴”した。

その縁でふだんは手にしないベストセラーを読む気になった。おもしろい。本書は「還暦からの底力」とタイトルは高齢者向きだが、学生向け「最後の講義」と比重は多少違うものの、内容はサブタイトルにある「歴史・人・旅に学ぶ生き方」で、同じものである。

 ひとことでいえば、「明るく単純な人生をおくるための教科書」である。(A)高齢者の生き方への提言、(B)これからの社会システムの在り方の提言、とからなる。

 ――「いつまで働くのですか」と質問されることがありますが、そんなことは考えても仕方がないと思っています。今日も朝起きて元気だから仕事をしているだけの話で、しんどいと感じるようになったら、そのときに引退すればいいだけの話ではありませんか。年齢に意味がないというのは、そういうことです。 (本書)

 これが(A)であり、(B)として「定年の廃止」を提言し、5つのメリットを挙げる。
健康寿命が延びて介護が減る。医療・年金財政は貰うほうから支払うほうにシフトし、好転する。年功序列賃金制がなくなり、業績序列にシフトし、企業にメリット。社会人生活が伸長され、中高年の労働意欲が高まる。労働力不足の日本では、定年を廃止して困る人はいない。

 ――もはやグローバルな企業間競争は、競技のルールもしくは競技そのものが変わったのです。それなのに、いまだに素直で我慢強く協調性があって空気が読めて上司のいうことをよく聞く人を採用し続けているのは、野球からサッカーにゲームが変わったのに毎晩バットを持って素振りを続けているようなもの。〔…〕

 たくさんの人に会い、たくさん本を読み、いろいろなところに出かけていって刺激を受ける、つまり、「飯・風呂・寝る」の低学歴社会から「人・本・旅」の高学歴社会へと切り替えなければならないのです。 (本書)

 新しい産業は、女性、ダイバーシティ〔異なる国籍の組合わせなど多様な人材〕、高学歴〔ダブルドクター、文理の別を超えた「変態もしくはオタク」〕の3つがキーワードで、豊かな個性を持つ人々が集まり、ワイワイガヤガヤ議論するなかから生まれてくる。

 道遠し。なにしろ新たな首相のやりたいことが“ケータイ値下げ”。いくらなんでもと周りが“デジタル庁”をつけ足した。日本はどんどん沈没してゆく予感がする。

 ――少子高齢化社会においてはヤング・サポーティング・オールドからオール・サポーティング・オールへの発想の転換が必要であり、所得税と住民票で回っていた社会から、消費税とマイナンバーで回す社会へのパラダイムシフトを起こさなければならないのです。 (本書)

 その理由。若者の数では高齢者を支えられない。年齢に関係なくみんなが応分の負担をする。世界で一番バリアフリーで弱者に優しいヨーロッパ社会は、消費税で組み立てられているので、消費税は弱者いじめではない。本当に困っている人に給付を集中させるために、所得や資産を把握する。そのためにマイナンバー。

 全体的に、格差社会やむを得ない、との印象。そして高齢者はずっと働け。働き続けながら、食べて寝て遊んで、いいたいことをいえることで幸せを味わおう。そのために友人とパートナーが大切だと。公的年金保険が崩壊することはありません。その理由は簡単で、公的年金保険の仕組みは要するに、市民から年金保険料を集めて要件を満たした市民に配っているだけだからです。

 そのうえで、答えがでないのに迷うのは時間の無駄だから、「迷ったらやる。迷ったら買う。迷ったら行く」ですぐ行動しなさい。

 迷ったら買う。新聞全面広告のサプリメント、テレビの通販番組のファッション、ジャパンライフの磁気ネックレス、最高の人生の見つけ方という人生指南本、……迷わずとも買うのは、つねに高齢者。

 最後に難題。おいしい人生をおくるには必須、いい社会をつくっていくための基礎が教養。「教養=知識×考える力」を磨くには古典を読むに限ると断言する。

 ――この6冊の本を読むことで、基礎的な教養の根本は得られます。
ベネディクト・アンダーソン『想像の共同体』、ウォーラーステイン『近代世界システム』、アダム・スミス『国富論』と『道徳感情論』、ジョン・ロック『統治二論』、ダーウィン『種の起源』。

 まあ、なんと嫌味な。いまさら“還暦読者”やハウツー本読者は、読まないでしょう(もちろん、当方のことだが)。

 大ベストセラーとなり、読者から大絶賛を浴びている本書。意地悪い目で再読すれば、“還暦読者”への生き方への提言は、以下のようなことだったか。

 これからは偏差値系東大と変態オタク系APUとが世の中を変えていく。その次世代を育てる役割が高齢者の生きている意味ですぞ。だから消費税のアップやマイナンバー制度に反対してはいけません。憲法も変えなくていいです。「人間の幸福はそれほどたいしたものではない」ので、「誰が何といおうと好きなことをやればいいです」。明るく単純な人生をおくっていただきたいと。

 

Amazon出口治明★還暦からの底力――歴史・人・旅に学ぶ生き方

 

 

|

« 吉田篤弘★奇妙な星のおかしな街で              …………外へ出ること。ゆっくり読むこと。そして、一人きりで読むこと。 | トップページ | 左右社編集部★仕事本 わたしたちの緊急事態日記            …………コロナ禍を避けた2020年4月の単調な日々を覚えていますか »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 吉田篤弘★奇妙な星のおかしな街で              …………外へ出ること。ゆっくり読むこと。そして、一人きりで読むこと。 | トップページ | 左右社編集部★仕事本 わたしたちの緊急事態日記            …………コロナ禍を避けた2020年4月の単調な日々を覚えていますか »