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2020.09.21

柳美里★南相馬メドレー     …………復興の地に居を移した作家の真っ直ぐな生き方

202003


  全国的なベストセラーリストとは全く異なっています。


 それは、おそらく、ここ、〔南相馬市〕小高が、地震、津波、原発事故によって大きく傷ついた地域だからです。


 フルハウスに訪れる人が切実に本を求めていることは、本への眼差しから伝わってきます。
 

 本は、扉を開ければ、そのまま異世界に通じたり、存在という事実そのものに立ち戻らせてくれたり、悲しみを明るく照らしたりしてくれます。
 わたしは、現実の中にはどこにも居場所がなかった子とも時代、本にしがみついて生きてきました。
 本の中の登場人物と手に手を取り合って生きてきたのです。

 この世に誰一人味方がいなくても、本があれば孤独ではない、と――。
 現実の中に身の置き場がなく、悲しみや苦しみで窒息しそうな人にとって、本はこの世に残された最後の避難所なのです。

★南相馬メドレー /柳美里 /2020.03 /第三文明社


 南相馬市といえば、福島浜通りに位置し、数百機の騎馬武者が駆け抜ける相馬野馬追祭りが有名である。福島第一原発の北、20km圏内にある。3.11の津波で死者行方不明者多数。当時の市長がYouTubeからSOSを発し、米タイム誌「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた(のちに除染作業談合疑惑で問責決議)。

 本書の舞台となる小高(おだか)区は、2016年7月に避難指示が解除。常磐線原ノ町― 小高駅間の列車運行も5年4か月ぶりに再開。小高駅の1日の乗車500人程度。失礼ながらふつうの田舎町である。

・2012年3月 「南相馬ひばりエフエム」で毎週「柳美里のふたりとひとり」という30分番組のパーソナリティ。2018年3月閉局まで、地元被災者約600人の話を聞く。

・2015年4月 神奈川県鎌倉市から福島県南相馬市原町区に引越し(毎週南相馬への交通費宿泊費の工面が苦しく)。

・2015年1月~ 福島県立小高工業高校の仮設教室で「表現(自己表現・文章表現)」についての講義とワークショップ

 ――わたしが生徒たちに伝えたかったことは、書き言葉に先立つものは話し言葉であり、話すことは聴くことから始まり、それは肉体的な行為なのだということ。外側からの情報で物事や人を知ったつもりになるのではなく、それらと親身に関わることが何よりも重要なのだということです。

・2017年4月 小高産業技術高校(小高工業高校・小高商業高校合併)校歌を作詞。
・2017年7月 南相馬市原町区から小高区へ転居。
・2018年4月 自宅で本屋「フルハウス」開業。 

 ――電車を一本乗り遅れたら、時間帯によっては一時間半も待たなければならない。ブックカフェを開き、生徒たちがおしゃべりをしたり、軽食をとったり、宿題をしたり、携帯電話の充電をしたり、Wi-Fiでゲームをしたり、思い思いのことをして時間を過ごせる場所を作りたい、と頭の中であれこれ計画していました。(2020年3月にカフェ増築)

・2018年9月 自宅敷地内の古い倉庫「La MaMa ODAKA」で演劇ユニット「青春五月党」の復活。地元高校生等の出演による「静物画」、「町の形見」公演。

 ――原発事故によって幾重にも分断され、無数の対立が生まれたこの地に、わたしは演劇によって他者との真の触れ合いの場を創出したい。

 柳美里(ゆう みり、1968~)は、3.11による被災地南相馬市に引っ越した。本書は月刊誌「第三文明」に2015年から19年まで連載、その復興の地での日々の暮らしのエッセー47篇を収録。

 本書のタイトルの「メドレーというのは、間にナレーションなどを入れずに、いくつかの曲を続けて演奏すること」。人生における劇的な変化、単調ともいえる日々の暮らし、過去の悲しみを奏でるメドレーを聴いてください、とある。

 3.11復興ものだが、取材記者によるドキュメントや識者の評論などと違い、作家自らの実践的支援活動を気負いなく淡々と綴り、その真っ直ぐな生き方に地元の人々が共感する。

 ――演劇や小説の言葉を真に必要としているのは、不幸や不運に直面している人だ。
言葉が、言葉としての役割を最終的に問われるのは、自分と他者の不幸や不運に直面した時だ。 (本書)

 

 Amazon柳美里★南相馬メドレー 

 

 

 

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