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2020.10.21

上西充子★呪いの言葉の解きかた      …………“ご飯論法”の教授が「呪いの言葉」の「切り返しかた」を指南する

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 たとえば「嫌なら辞めればいい」という言葉。これは、典型的な呪いの言葉だ。

 長時間労働や不払い残業、パワハラ、セクハラ、無理な納期、無理な要求――そういう問題に声をあげる者に対して、「嫌なら辞めればいい」という言葉が、決まって投げつけられる。〔…〕

「嫌なら辞めればいい」という言葉は、辞めずに「文句」を言う者に向けられている。他方で、その言葉を投げる者は、長時間労働を強いる者や、残業代を支払わない者、パワハラをおこなう者、セクハラをおこなう者、無理な納期を強いる者、無理な要求をする者などには、目を向けない。そもそもの問題は、そちら側にあるのに。

だから、「嫌なら辞めればいい」という言葉は、働く者を追い詰めている側に問題があるとは気づかせずに、

「文句」を言う自分の側に問題があるかのように思考の枠組みを縛ることにこそ、ねらいがあるのだ。 〔…〕

不当な働かせかたという問題の本質を背景に隠し、「なぜ辞めないのか」という問いの中に相手の思考の枠組みを固定化しようとする。「嫌なら辞めればいい」は、そのような「呪いの言葉」だ。

 

★呪いの言葉の解きかた /上西充子 /2019.05 /晶文社


 著者上西充子法政大学教授は、“ご飯論法”の名付け親である。2018年新語・流行語大賞にも選ばれた。

 ご飯論法とは、「朝ご飯は食べたか」という質問を受けたとき、パンを食べたことは隠し、ご飯(白米)は食べていない、と答えるように、質問側の意図をあえて曲解し、論点をずらし回答をはぐらかす答弁手法である。

 その特徴は、論点のすり替え、はぐらかし、個別の事案にはお答えできない、話を勝手に大きくして答弁拒否、過去の事実の書き換え、である。なんといっても安倍前首相の“得意技”であり、菅官邸に引き継がれ、加藤勝信官房長官が多用する。

 その上西先生が、こんどは日本学術会議の会員候補6人が推薦通りに任命されなかった問題を巡る加藤長官の説明を“チャーハン論法”と批判した。

 ――「『エビチャーハンを作っていたのを玉子チャーハンに変えましたよね』という質問に、『同じシェフが作っており、その点においてなんら変わりはない』と言っているようなもの」と記した。

1983年の「(任命)行為は形式的」との国会答弁と、2018年の政府文書の「推薦通り任命すべき義務があるとまでは言えない」との見解に関し、政府が憲法を根拠に「同じ考え方に立っている」(加藤氏)と説明したのを批判している。 (毎日新聞2020年10月8日)

 記者会見で問われた加藤長官は「まず例えの意味がにわかに分からない」と応じたという。確かにねえ、ちょっとわかりにくい。

 さて、本書上掲の「呪いの言葉」への対処法は……。

 相手の土俵に乗せられないように、心理的に距離を置きながら対応する。

「あなたは私を逃げ出せないように、縛りつけておきたいのですね」と問い返し、支配する場から一時的に逃げる。

 どう対抗できるか関係者に相談する。

 呪いの状態から精神的に脱するために、相手の卑劣さを“無効化”する言葉で切り返す。

 といったプロセスが大事だと説く。本書には労働をめぐる呪い、ジェンダーをめぐる呪い、政治をめぐる呪いを扱い、呪いの言葉の“無効化”の方策を探る。

 ただ引用されているケースが、まんがやドラマからなので、高齢の当方にはなじみが薄く、共感しにくい。また、呪いの言葉とは逆に、主体的な言動を促す“灯火(ともしび)の言葉”、みずからの生き方を肯定する“湧き水の言葉”に目を向けたいという。どうもねえ、ネーミングがついていけないです。

 巻末に付録があって、呪いの言葉の解きかた文例集が掲載されている。たとえば……。

仮定の質問には答えない。

→仮定の話ができない方に政治家の資格がおありだとお考えですか?

 

コメントせず。

→黙っていれば沈静化して国民は忘れてしまうと考えているのですね!

 

事実に基づき、丁寧な上にも丁寧な説明をしていく努力を重ねていきたい。

→私が求めているのは、丁寧な説明ではなく、質問とかみ合った、的確な返答です。

 

 うーん。それはそうなんだが、勝てるかな。いや勝たねばならない。

 

Amazon上西充子★呪いの言葉の解きかた

 

 

 

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