« 斎藤美奈子★中古典のすすめ     …………1960~90年代ベストセラーのうち「恍惚の人」は古典となり得るか | トップページ | 花房観音★京都に女王と呼ばれた作家がいた           ………… 山村美紗の死後、“美紗命”の男二人は »

2020.10.14

武田砂鉄★わかりやすさの罪         …………「すぐわかる!」より自分で考えることを徹底する方が、面白い

202007_20201014070201


 そして是枝〔裕和監督〕が続ける。

「僕は意図的に長い文章を書いています。

 これは冗談で言っていたんだけど、ツイッターを140字以内ではなく、140字以上でないと送信出来なくすればいいんじゃないか()

 短い言葉で『クソ』とか発信しても、そこからは何も生まれない。文章を長くすれば、もう少し考えて書くんじゃないか。字数って大事なんですよ」 〔…〕

「だって、世の中って分かりやすくないよね。分かりやすく語ることが重要ではない。むしろ、一見分かりやすいことが実は分かりにくいんだ、ということを伝えていかねばならない。僕はそう思っています」

 ――「8 人心を1分で話すな」

 

★わかりやすさの罪 /武田砂鉄 /2020.01  /朝日新聞出版


 

「すぐわかる!」に頼り続けるメディア

納得と共感に溺れる社会で、与えられた選択肢を疑うために。

シンプルな暴言を叫べば時代の寵児になれる社会

 これが本書の帯の惹句である。読者になってと誘うには、難解ではないか。タイトルの方がよほど魅力的だ。あえて難しいキャッチコピーで、立ち止まらせようとしているのか。なぜなら「わかりやすさ」至上主義の世間の風潮に違和感を唱えているのが本書だから。

 本書は24のチャプターからなるが、以下「8 人心を1分で話すな」のみを取りあげる(熟読したのはこの章のみ。他の章はほとんどスルー)。

 まず、NHKの「国内番組基準」の「第1章放送番組一般の基準・第11項 表現」の9項目を紹介し、その1に「わかりやすい表現を用い、正しいことばの普及につとめる」に注目する。

 以下、たとえば、新聞やNHKニュースで多用される「……とされる」という表現が、あいまいで解釈に隙間をつくっている、といい、逆にラジオで「確実に差別である」と話したら、SNSに「確実」との断言は言いすぎとコメントが書きこまれた、という話など。

 話題は、熊本地震で芸能人をターゲットに「不謹慎狩り」が横行したこと、沖縄タイムスのコラム、小池東京都知事が「関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式」に追悼文の送付をやめたこと、大晦日に放送された『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』での黒塗りメイク、両親から虐待を受け続けて亡くなった5歳の子を取りあげたワイドショー、ベストセラーとなったビジネス書伊藤羊一著『1分で話せ』、梅田悟司著『言葉にできる」は武器になる。』

 などなど多数のテレビ、新聞、本からの世間の話題を敏感に取りあげ、わずか8000字の中で、“わかりやすさの罪”を語っている。ほんとうに凄腕だ。

 だが著者と対極にいる伊藤羊一『1分で話せ』は言う。

「たくさん話したくなるのは、調べたこと、考えたことを全部伝えたい!、『頑張った!』と思ってほしいという話し手のエゴです。

 でも、聞き手は、必要最低限の情報しか、ほしくないのです」

 ええっ、話が“エゴ”の方向に行ってしまうのか。もちろん著者は断固として反論する。著者の発言を引用しておこう。

 ――思考というのは、このように考えなさいという強制だけではなく、考える力をあらかじめ奪うことによっても揺さぶられる。裏側に、逆サイドに、隣に、あるいはまだ吐き出していない心の内に、どういった思考が用意されているか、眠っているかを詮索し続ける必要がある。 (本書)

 わかりやすさのために、単純化され、四捨五入され、考えることを放棄させられている。自分で考えることを徹底する方が面白いよ。主旨は、こういうことかな。

 ところで、このなかに上掲の是枝監督への朝日新聞のインタビュー記事がある。是枝監督の発言を、孫引きのかたちになるが、コレクションに加えたくて、当方はじつはこの8章だけを熟読した。

 ツイッターは、140字以内という制約があって、当方の経験からいえば、結論だけで、その理由や思考のプロセスが省略されている。そのため注意を引く“盛った”140字になりかねない。

 との理由で当方はツイッターを好まない。そのツイッター嫌いの当方がじつはツイッターに飲み込まれブログへの誘導のため使っているのだが。

 是枝監督の「文章を長くすれば、もう少し考えて書くんじゃないか」には、例外がある。当方や知人のブログが、年とともに長くなっていく。だらだらと続き、字数制限がないため歯止めがきかない。垂れ流しである(本稿がそうである)。たくさん話したくなるのは、断言するが、エゴではなく、老化、劣化のせいである。

 話がそれてきた。もっとも著者はまえがきにこう書いている。

 ――「わかりやすさ」の罪について、わかりやすく書いたつもりだが、結果、わかりにくかったとしても、それは罠でも罪でもなく、そもそもあらゆる物事はそう簡単にわかるものではない、そう思っている。

 

Amazon武田砂鉄★わかりやすさの罪 

 

 

 

 

|

« 斎藤美奈子★中古典のすすめ     …………1960~90年代ベストセラーのうち「恍惚の人」は古典となり得るか | トップページ | 花房観音★京都に女王と呼ばれた作家がいた           ………… 山村美紗の死後、“美紗命”の男二人は »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 斎藤美奈子★中古典のすすめ     …………1960~90年代ベストセラーのうち「恍惚の人」は古典となり得るか | トップページ | 花房観音★京都に女王と呼ばれた作家がいた           ………… 山村美紗の死後、“美紗命”の男二人は »