磯貝英夫・室山敏昭:編★類語活用辞典 新装版 …………“読む辞書”として楽しい
たとえば、われわれが小説を読んでいて、
中にはあの男をののしって、画のために親子の情愛も忘れてしまう、人面獣心のくせものと申すものもございました。 (芥川龍之介=地獄変)
の中の「情愛」を「愛情」と言い換えることはできないだろうか、なぜ、ここは、「情愛」でなくてはならないのだろうかと考えることがある。〔…〕
手元にある国語辞典の一冊を開いてみると、次のような説明が見える。
情愛 いつくしむ心。なさけ。愛情。
愛情 ①肉親や親しい者をいとおしく思う気持ち。情。愛。情愛。②物事に対して、親しく大切に思う気持ち。愛。
これを見ると、「情愛」と「愛情」の意味のちがいが、いまひとつはっきりしない。とくに、先の地獄変の「情愛」が、なぜ「情愛」でなければいけないかということは、この説明からは理解することができないようである。
もし、この国語辞典に、「情愛は、肉親・夫婦間の関係で用いられることが多く、愛情ほど激しくはないが、深いこまやかな思いやりの気持ちを表す場合に使う。」
といった説明が加えられていたなら、地獄変の「親子の情愛」は、やはり、「情愛」でなければいけないということがわかるはずである。
――「類義語の世界 2ことばの意味がわかるということ」
★類語活用辞典 新装版 /磯貝英夫・室山敏昭:編 /2020.04 /東京堂出版
日頃、俳句を作るとき、よく利用するのは角川書店編『合本俳句歳時記 第3版』である。春・夏・秋・冬・新年の5分冊を使っていたが、ぼろぼろになったので合本版に買い替えた。この歳時記は、現在第4版増補(2011年)まで出ているが、収録されている「例句」が当方に合うのは第3版(1997年)である。
また『逆引き季語辞典』(1997年・日外アソシエーツ)も多用している。
もう一つ欲しいのが「類語辞典」である。そこで近くの図書館で約10冊の類語辞典を比べて、これがいいと決めたのがこの『類語活用辞典』である。本書は1989年刊行の「四六判」を「A5判」にした新装版で、なにより文字が大きいのがいい。
たとえば、「あたふた」には、あたふた・そそくさ・そこそこに・うろうろ・そわそわ、が類語だとしている。
そういえば菅首相が2020年10月29日衆院本会議で「国民の政権への期待も“そこそこに”ある」と述べて、議場が騒然とする一幕があった。のちに「国民の期待もそこにある」と議事録が訂正された。菅首相は間違いに気づいて“そわそわ”し、官邸は“あたふた”し、議会事務局は“うろうろ”し、職員は“そそくさ”と訂正したのだろう。
だが新装版といっても判型が変わっただけで、内容は1989年版と同じらしい。言葉にははやりすたりがあり、当方が望む今の言葉がでてこない。たとえば、“姑息”な安倍、“隠蔽”の菅、“野卑”の麻生、コロナ分科会長の“忖度”とか、担当大臣の“自粛”とか……。
そういえば菅首相が頻用する言葉に“こうしたこと”や“そうしたこと”がある。2020年10月9日の報道3社のグループ・インタビューでわずか30分の間に、“こうしたこと”が24回、“そうしたこと”が15回使われている。
菅首相の貧弱な言葉遣いに、当方は不安視し、憂慮し、懸念し、胸騒ぎを覚え、危惧する。杞憂に終わればいいが、寒心に堪えない。
というわけで、句作の参考にせず、もっぱら眠る前に“読む辞書”として楽しんでいる。
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