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2020.12.13

西山厚★語りだす奈良1 1 8の物語★語りだす奈良ふたたび        …………仏教とは何かをやさしく教えてくれる

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元気いっぱい幸せいっぱいの人が仏像を造らせたりはしない。仏像の背後には、それを造らせた人の苦しみや悲しみがきっとあるに違いない。

阿修羅像は、子を失い母を失った光明皇后の深い悲しみが生み出した仏像である。

 

★語りだす奈良1 1 8の物語 /西山厚 /2015.10 /ウエッジ
★語りだす奈良ふたたび  /西山厚 /2019.06 /ウエッジ


 ――奈良にはたくさんの物語がある。悩み苦しみ、傷つき悲しみながらも、精一杯の人生を送った人々が生み出した、たくさんの物語。(本書)

 元奈良国立博物館学芸部長が毎日新聞奈良版に連載したエッセイをまとめたもの。
 奈良の伝統行事やそれを守り伝える人々との交遊のなかから奈良の魅力や寺社の歴史をわかりやすく綴る。そしてなによりも仏教とは何かをやさしく教えてくれる。以下、その抜粋……。
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 阿修羅像の背後には、お母さんを亡くした光明皇后の深い悲しみがある。その悲しみに思いをばせながら向き合わないと、阿修羅像のことは理解できない。阿修羅に本当に出会ったとはいえない。
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 聖武天皇の苦しみが大仏を生み、光明皇后の悲しみが正倉院宝物を生んだ。幼くして母を亡くした鎌倉時代の叡尊はその悲しみを力に変えた。苦しみや悲しみからしか生まれてこないものがある。苦しみや悲しみが、やがてやすらぎゃ大きな喜びを生み出していく不思議。
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 仏像の手のさまざまなポーズには、すべて意味がある。右手を胸の高さまであげて、手のひらを外に向けるポーズは「施無畏印」という。畏れ無さを施す。悩みを抱えてやってきた人、苦しみを抱えてやって来た人に、微笑みながら、「だいじょうぶだよ」と、やさしく言ってくれている。
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 仏教は悩み苦しむ人のためにある。だから、僧侶は誰よりも苦しんでほしい。この世は苦しみに満ちている。その苦しみのすべてを、僧侶は自分の苦しみとして受け止めてほしい。それができた時、いや、本気でそうしようとした時、僧侶の言葉は、苦しむ人たちの胸にしみ入るに違いない。その時こそ、僧侶は、真の癒やし手となることができるのだと思う。

 

 

 

 

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