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2021.01.07

皆川博子◆随筆精華 書物の森を旅して               …………阿修羅像の、ひそめた眉のなんと匂やかで初々しいことか

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 インド神話、仏教神話においては、阿修羅は人に害をなす凶悪な魔神である。

 それなのに、仏法守護の八部衆の一として建立されたこの三面六臂異形の阿修羅像の、ひそめた眉のなんと匂やかで初々しいことか。
 日本古来の神道にあっては、神は童子を憑代(よりしろ)として顕現したまう。祭りに化粧した稚児が重要な役を担うのは、そのゆえである。

 原始宗教が大地の豊穣と人の繁栄を願えば、必然的に性の香りを伴う。


 興福寺の阿修羅が、清冽でありながら艶の気配を秘めるのも、ゆえないことではない。


――美少年十選・阿修羅

◆皆川博子随筆精華 書物の森を旅して /2020.09/河出書房新社



 皆川博子(1930~)単行本未収録のエッセイ集。

 魅了された小説、お気に入りの芝居や絵画、海外取材記など、偏愛と美学に満ちた94篇を収録。以下、その中の1篇「残忍にして美貌」から……。


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 色悪。その片鱗に私が最初に触れたのは、歌舞伎ではなく、七つ八つのころに読んだ少年小説においてであった。

 吉川英治の『天兵童子』に石川車之助という美少年が登場する。色悪と呼ぶには、いささか年齢が不足だが、美と悪が溶け合うという条件はみたしていた。

 正義の主人公である天兵童子を散々に悩ます、悪知恵あり武術妖術に長けたこの悪少年は、大盗賊石川五右衛門の少年時代という設定であった。

 後年、歌舞伎に馴染むようになって、色悪と呼ばれる人物たちを知った。残忍悪逆冷血にして美貌。これほど魅力的な存在があろうか。

 

 

 

 

 

 

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