大原扁理◆いま、台湾で隠居してます――ゆるゆるマイノリティライフ …………でも台湾だから、ひきこもりでも大丈夫なんです。
無料で誰でも使えるインフラが整っているということは、自分の経済力でインフラを整えられない社会的弱者にもやさしいってことなんですよね。
最悪、このまま下流老人になっても、路上生活者になっても、台湾でなら生きていけるかもしれない。
でも私がそう思うのは、たぶん、無料の水やWi-Fiや、スマホの充電スポットだけの話ではないんじゃないか、という気がする。
台湾社会には、「どんな人も、居ていい存在である」という共通認識のような気分があるんです。
排除されないこと。これって人間的インフラともいえるんじゃないかな。
◆いま、台湾で隠居してます――ゆるゆるマイノリティライフ 大原扁理 /2020.12 / K&Bパブリッシャーズ
大原扁理(1985~)。著書に『20代で隠居 週休5日の快適生活』『年収90万円で東京ハッピーライフ』『なるべく働きたくない人のためのお金の話』。
著者のいう“隠居生活”とは、
――週に2日だけは生活費のために働くけれども(介護の仕事をしていました)、あとの5日はなるべく社会と距離を置き、年収100万円程度稼いだら、あとは好きなようにさせてもらう、という感じ。少労働、低消費、そして省エネ型の最高な生活。
その“隠居生活”を31歳で台湾に移住し体験した3年間を綴ったもの。
――これを「台湾ガイド本」としてどこかに紹介された困るどうしょう!(いやないか、笑)
と書いているが、いやいや出発前の手続きから台湾での暮らし、気候と衣服、食事、言語、台湾人論までいたれりつくせりの“実用ガイド本”である。
しかし“ガイド本”にとどまらないのが、著者の生き方である。会社勤めをせず、拘束が最小限ですむ生活は、著者がLGBTQのジェンダー分類のGにあたることや定期的にウツ症状(たとえば、この世のすべてに対して1ミリも興味関心が持てないのですべてがどうでもよくなり、食事や生活が崩れていく)がでることに起因するらしい。「台湾でウツは治るのかレポ」という章がある。
「私はインスタント言語障がい者」という章がある。「言語が不自由な外国人」というマイノリテイの立場で暮らすことで分かったこと。
――なんでわざわざマイノリティ体験をしなくちやいけないのかって思うかもしれません。が、これを経験しておくと、誰のためでもなく、自分自身のためにいいんですよね。幻想を捨てることができると、自分がめちゃくちゃラクになれるんです。
他の人と違ってても、わかりあえないところがあっても、ガッカリしなくなる。だって、わかりあえないのがデフォルトだから。
言語が不自由な外国人の著者は、台湾で相変わらず引きこもりながらも、「友人未満、他人以上」の近所づきあいで自らを解放していく。
――でも台湾だから、ひきこもりでも大丈夫なんです。
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