02/作家という病気◆T版2021…………◎高野慎三・神保町「ガロ編集室」界隈◎荒俣宏・妖怪少年の日々 アラマタ自伝◎常盤新平・片隅の人たち
02/作家という病気
高野慎三◆神保町「ガロ編集室」界隈
2021.2/筑摩書房
それにしても、読者の若さに注目する前に、作家の若さにもいまさらながら驚嘆する。
この頃、一番年長の水木しげるさんが40歳をこえたばかり、白土さんと滝田さんが、34、5歳、つげ義春さんが29歳、忠男さんが26歳だった。楠勝平、勝又進、池上遼一、林静一、佐々木マキ、つりたくにこさんらは、全員19か20歳そこそこだった。
つまり、楠さん以下はみな読者とほぼ同年齢だったのである。
「ガロ」の読者欄で、これら若い作家の作品に向けて賛否の大論争が延々と展開されたのは、それぞれの作品が十代の読者の心情を代弁するものと受けとられたからだろう。
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漫画家たちの言動もさることながら、当方は山根貞夫、林静一、著者の3人と映画監督加藤泰との交流が興味深かった(当方は加藤泰ファン)。
1965年に「明治侠客伝 三代目襲名」を見た後、加藤泰から目が離せないと、ついに3人は京都太秦の撮影所を訪ね、インタビューをし、70年に『遊侠一匹 加藤泰の世界』300ページの布張り上製本を刊行するに至る。
さらに77年『江戸川乱歩の陰獣』では監督の要請にこたえ林静一の美しい少女の緊縛画2点が画面に登場する。
02/作家という病気
荒俣宏◆妖怪少年の日々 アラマタ自伝
2021.01/KADOKAWA
物事の起源を知るために古いものごとを捜索することは、本質的に「神かかり」の技である、とわたしは確信している。
何かを再発見するという行為は、なにかの偶然が作用するものでなくてはならない。
すぐにたどり着ける発見などは、最初から発見ではあり得ない。
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鈴木牧之「北越雪譜」の影響を受けたという記述がある。江戸後期には自由な学問である博物学が流行した。妖怪研究も博物学は拒否しなかった。『北越雪譜』の「鮭」や「異獣」の記述姿勢は、近代的な意味での「情報」になっている点が尊い、と。
――平凡社に住み着き、約8年を要した『世界大博物図鑑』の執筆を開始してからのことだ。『北越雪譜』と同じように、わたしの本でも挿絵を重視し、動物の「民話的な知識」をなるべく情報文書のように淡々と記した。(本書)
02/作家という病気
常盤新平◆片隅の人たち
1992.12/福武書店=2021.01/中央公論新社
「翻訳なんて缶詰みたいなもんですよ、そう思いませんか」
望月は言って、ロング・セラーをつづけできた、ある翻訳小説を挙げてみせた。
「あれだって訳文はもう古いですよ。
原書は古くならないが、翻訳のほうは古くなるというのが僕の持論でね。翻訳 なんていわば耐久消費材じゃないですか。何年かたつと古くなってくる。読めないことはないけれど、訳文にガタが来ている。〔…〕昭和のものよりかえって明治時代に翻訳された『即興詩人』や二葉亭四迷のものが残っている」
翻訳者などとるにたりない存在だと望月は自嘲しているようだった。僕も彼の言うとおりだ
と思った。(「新しい友人」1992)
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直木賞受賞の“青春小説”『遠いアメリカ』(1986年)の前後、昭和30年代の翻訳者たちの生活を描いた連作短編。
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